こくほ随想

医療と介護の連携について

厚生労働省では7月11日に幹部の人事異動があったが、併せて保険局に「医療介護連携担当」の審議官と「医療介護連携政策課」が新設された。先の国会で医療介護総合確保推進法が成立し、医療と介護の連携が最重要とされていることに応える布陣である。

医療と介護との連携は、古くから課題とされてきた。旧厚生省の組織の変遷がこれを物語っている。1982年に制定された老人保健法は、予防から治療・リハビリまでの老人医療の確立を謳い、公衆衛生局に老人保健部が設置された。老人医療を所管する同部と福祉の所管(社会局老人福祉課)が分離した。その後、医療と福祉の連携が求められ、1988年に両者を統合した老人保健福祉部が大臣官房に設置された。同部は1992年に局に昇格(老人保健福祉局)し、2001年に老健局に名称変更されて今日に至っている。都道府県でも、民生部、衛生部と縦割りであった組織を保健福祉部などとする同様の動きがあったことは、周知のとおりだ。

しかし、地域医療計画の策定にみられるように医療行政は都道府県の任務とされる一方、介護保険制度は市町村中心で組み立てられている。さらに、医療界と介護界の文化の差ともいうべき障壁があり、両者の連携は成果が上がってこなかった。

医療と福祉の連携に困難があるのは、わが国に限ったことではない。筆者は30年ほど前にスウェーデンに駐在したが、同国では医療は県が、福祉は市町村(コミューン)が担当しており、両者の連携の悪さが問題となっていた。連携の促進のため、老人ホーム(サービスハウス)と老人病棟(長期入院病棟)を同一建物の上下のフロアに合築したが、それでも所管が異なるフロアに高齢者を移動するのは至難の業だと職員が慨嘆する状況であった。医療のプライマリケア部分を県からコミューンに移管した、1992年のエーデル改革は、スウェーデンにおけるこの課題への処方箋であった。

翻ってわが国ではどうか。「社会保障と税の一体改革」の枠組みでは、医療と介護は、子ども・子育て、年金と並んで、消費税財源を充当する社会保障4分野として位置づけられた。しかし、昨年8月の社会保障制度改革国民会議の報告書では、「医療・介護サービスの一体改革」が必要であるとされ、各論では「医療・介護分野の改革」と両者は一括で記述されている。

国民会議のメッセージは明確だ。「国民皆保険の維持のためには、医療の在り方そのものが変わらなければなら」ず、医療提供体制の改革こそが最優先の課題とする。「病院完結型」から「地域完結型」の医療への転換、「上流」(高度急性期・急性期医療)から、「下流」(慢性期、維持期)までの医療と介護の切れ目のない提供を求めている。住民の日常生活圏域では医療と介護が手を携えて「地域包括ケアシステム」を構築していかなければならない。

厚生労働省医政局では、ここ数年、約100地区で在宅医療連携拠点事業(モデル事業)を実施してきた。しかし、これを恒久化する財源の確保はできず、今回の法改正によって介護保険の地域支援事業に位置付けられた。医療は都道府県、介護は市町村という従来の枠組みを超えて、市町村の事業として医療・介護連携が推進されなければならない。

今回の法改正によって、国は「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本方針」(総合確保方針)を定めることになった。7月25日には厚生労働省で「医療介護総合確保促進会議」の初会合が開かれた。総合確保方針では、「新たな財政支援制度」(基金)の使い道や、医療計画と介護保険事業計画の整合性を図るための基本方針が定められる。まさに今後の医療と介護の連携の基軸となるものだ。

全国の市町村は、これを踏まえ、来年4月からの第6期介護保険事業計画において医療と介護の連携を進めていくという重要な使命を負っている。遠からず、その成果が問われることになろう。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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