こくほ随想

「ドイツの医療保険料案について」

先日、ドイツの社会保障の専門家と話す機会があった。

ドイツは、日本の社会保障制度のモデルとなった国であり、労使折半を基本とする社会保険方式が社会保障制度の主流を占めている点や、先進国の中でも「超」がつく出生率の低さなど、共通点も多い。

少子高齢化の進展、経済の低成長、国際競争力の増大など、社会保障を取り巻く環境が厳しさを増すなか、ドイツでも、年金、医療、介護などの各分野で、積極的に改革が行われている。今回は、そのうち、医療保険制度における保険料負担を巡る話を紹介したい。

ドイツでは、2005年の連邦議会選挙で大連立が誕生したが、医療の保険料の支払い方を巡って、現在、社会民主党と、キリスト教民主・社会同盟の間では、意見が大きく対立したままのようである。

社民党が提案しているのが、「社会連帯」をキーワードに、現行の保険料支払い方式を改め、全国民を対象とした新しい仕組みを作る案だ。ここでは暫定的に、「国民保険案」と呼んでおく。

日本と違って、ドイツは「国民皆保険」ではない。公的医療保険に加入しているのは、国民の87%にとどまる。たとえ被用者であっても、その賃金が一定限度を超える高所得者の場合は、公的医療保険への加入義務が免除されている。「国民保険案」は、これを改め、すべての国民に加入義務を課し、保険料も納めてもらおうというものだ。

また、この案のもう一つの特徴として、現在のように賃金のみを保険料納付の対象とするのではなく、例えば資産収入や利子収入など、賃金以外の収入も保険料を課す際の対象にしようということが挙げられる。これは「負担の公平の実現」という考えに基づく。

この案に対し、キリスト教民主・社会同盟が提案しているのが、「人頭保険料案」だ。これは、従来の賃金に応じた保険料に代えて、家族などの被扶養者を含めたすべての成人の被保険者に対して、一人あたり定額の保険料を賦課しようという案である。その際、これまで企業側に労使折半として課していた保険料負担は軽減する。使用者側の保険料負担が過重になりすぎ、それが雇用や産業に与える影響が大きくなっている現状を受け、使用者側が負担する「賃金付随コスト」の軽減を通じて、むしろ雇用の拡大を図ろうというものだ。

一人あたりの定額保険料、つまり人頭保険料を払えない低所得者に対しては配慮する。また、成人に達しない子供に対しては、保険料負担が免除され、その分は税で補てんされる。

これらの両案に対しては、それぞれ、賛成意見、反対意見がきかれ、なかなか結論を得るのが難しい状況という。連立協定上は、2006年中にそれぞれの政党が合意し得る案を見いだすこととされているそうだが、両案は、「負担を考える際の基準をどこに置くか」という、いわば哲学的な思想も含むだけに、なかなか容易に結論は出そうにない。

医療ばかりに限らないが、負担に関しては、「企業負担をどうするか」「国庫負担をどうするか」が、日本でも大きな論点としてクローズアップされている。社会保障は、医療や年金など、制度単体だけで考えて済む問題ではなく、社会状況、経済状況などを含めて総合的に考えなければならない。年金、医療、介護、雇用をあわせた社会保険料率が42%と、日本よりはるかに高いドイツでは、負担の痛みを誰が担うかについてのシビアな議論が行われているともいえるだろう。しかし、日本も対岸の火事というわけにはいかない。

もちろん、両国の制度上の違いはあるにせよ、ドイツの改革の方向性なども見ながら、日本に合った社会保障改革の道を、とりわけ負担の構造をどうするかを、何とか探っていくことが重要だ。

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