こくほ随想

「子育て支援考」

4月から、児童手当法が改正された。「小学校3学年修了まで」という支給対象年齢が、4月からは、「6学年修了まで」に拡大された。親の所得制限も、夫婦と子供2人のサラリーマン世帯の場合、年収780万円未満から860万円未満に、同じ条件の自営業者世帯の場合は、同596万3000円未満から780万円未満に、それぞれ引き上げられた。これらの変更によって、現在、約940万人の児童に支給されている児童手当は、約1310万人に増え、対象年齢児童全体へのカバー率は、現行の85%から90%に上がったという。

児童手当をめぐっては、制度の目的や、少子化への効果、財源確保策などをめぐって、否定的な言葉が投げかけられることが少なくない。「これっぽっちのお金で、出生率の向上は見込めない」「ばらまき福祉の典型」「親の酒代になっている」「財源確保のやり方が不透明」「政党の宣伝策として使われている」などがそれだ。

確かに、今回の財源確保策を見ていても、いったん見送る方針が固まったたばこ税の増税で、実質的には財源が手当てされるなど、“つじつま合わせ”の観はぬぐえない。また、児童手当の目的にしても、本来は、「子育て家庭の経済支援と子供の健全育成」とされる(ただし、制度発足当初=1972年=は、実質的には、多子貧困対策の色合いが強かった)ものの、2000年以降は、「少子化対策の柱」と、時の政権与党により位置づけられてきた。これに対しては、少子化の進行に歯止めをかけ、出生率の向上を期待するのであれば、現在とは桁違いの給付と財源が必要になるとの指摘がある。また、海外ではそれなりの評価を得ている児童手当が、日本では、「ばらまき」「効果が疑問だ」と批判される背景には、少子化対策なのか、子育て支援なのか、子育て世帯とそうでない世帯との格差是正なのか、現役世代への所得保障なのか――など、手当の目的が今ひとつはっきりせず、手当拡充が、政治の人気取りや、選挙対策に利用されてきた側面があることは否めない。

制度創設から30年以上がたち、今一度、手当の目的や中身をよく考えてみることが必要だが、児童手当が無駄とか、無意味とは思えない。住宅ローンや教育費などに悩む現役子育て世代にとって、経済的支援は必要であり、そもそも、日本の子育て支援にかける費用は、先進国の中でも最低部類に入るからだ。

先日、日本とドイツの専門家が集まって、子育て支援策について話し合う国際会議が東京都内で開かれた。ドイツも日本と同様、先進国の中でも低い合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の平均数の推計)に悩む。

そこでの会議で印象深かったのは、「社会保障の給付を、『人生のラッシュアワー期』にもっと集中させるべきだ」「子育て支援には、『金・インフラ・時間』の3本柱が欠かせない」というドイツ側の報告だった。

「人生のラッシュアワー期」とは、仕事に忙しく、子育てに忙しい、現役子育て時代を指す。出費も多く、本人もゆとりがない時期に、もっと、社会保障の給付を集中させようとの意味である。

また、3本柱とは、「金(児童手当などの経済的支援)」「インフラ(保育所などの社会的サービス基盤整備)」「時間(親が育児休業や短時間勤務をしたりして子供と過ごせる雇用体系)」の3つの政策であり、このどれかだけを行うのでは駄目で、3者をバランスよく実施することが大事と指摘している点は興味深かった。

いわれてみれば、日本でも、「子育て3本柱」は、児童手当と保育サービスと育児休業制度である。雇用環境の改善はなかなか進まないが、子供の育ちのためにも、欠かせない施策といえよう。

政府予測より2年も早く人口減社会に突入したことも受け、今年は、子育て支援の施策が注目される。児童手当はもちろん、どの施策もバランスよく前進させる努力が必要だ。

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