こくほ随想

在宅医療の可能性と医療IT

昨年末からCOVID-19の第6波が日本を襲っている。この原稿を書いている時点で1日の感染者数は10万人に達し、過去の波とは文字通り桁違いの広がりを見せている。他方で、当初、未知の感染症で治療手段もなく対症療法しかできなかったが、現在はワクチンも開発され治療薬も次々と登場している。もちろん楽観視することは禁物だが、敵の変異に対抗する手段を人類は確実に手にしつつある。経口治療薬が登場すれば診療所での治療が可能になり、医療提供体制は格段に拡充される。その意味で、コロナとの戦いは新たなステージに入ったとも言えるだろう。

この2年間、COVID-19禍を通じて我々が見たのは「すでに起こっている未来」だった。2040年に直面するであろう医療の現場を、我々は現在進行形で経験した。

現在でもすでに入院患者の7割は65歳以上、半数は75歳以上であり、高齢者の6割は独居か老齢夫婦世帯となっている。要介護高齢者・基礎疾患持ち慢性疾患患者の急性期対応・感染症対応は常態化し、家族介護はほぼあてにならない社会になっていく。

すでに多くの識者が語るように、医療の目的は「治す医療」から「治し支える医療」へと変わる。生活の質(Quality Of Life)を重視した医療、「生活の中の医療(生活を犠牲にしない医療)」がより求められるようになる。

当然、病院に求められる機能・役割も変化していく。一方では、「治す」に特化した高次機能・専門治療機能、そして他方では、「治し、支える」を担う在宅医療・地域医療を支える機能である。

「治し、支える」は医療だけでは実現できない。故に地域医療の形も変わらなければならない。外来中心から往診・オンライン診療がむしろ標準形になり、生活全体を支える医療・看護・介護・生活支援を包括したケアが必要になる。まさに「地域完結・在宅支援型」のケアシステムであり、このためには多様な専門職種の連携・協働が重要になる。即ち「地域包括ケアネットワーク」である。

地域包括ケアネットワークは、在宅医療が機能しなければ成立しない。今回の危機を乗り越えていく過程で在宅医療はその力量と可能性を大きく広げた。それを支えた一つの大きな力が新しい医療技術・医療機器、特にICT、IoTである。ウェアラブル端末、コミュニケーション機器、在宅酸素など、様々な診断治療支援技術が次々と導入・実装され、COVID-19と戦う在宅医療の現場を支えた。

そもそも医療は連続的なもの。在宅医療と入院医療の間に断絶はないはずである。診断治療技術の進歩、在宅の医療資源の充実、ICTのような新しいテクノロジーの実装が進めば、在宅医療の限界点(守備範囲)は大きく広がっていく(広げられる)。

これから必要なのは「生活を支える医療」である。いかに生活の継続性を損なうことなく、尊厳を持って地域で最後まで過ごすことができるか。とすれば目指すべきは「いかに在宅医療の限界点を高め、在宅支援の視点で地域資源を組み立てるか」になる。

そう考えると、医療IT・IoT・DXは、これからの在宅医療・地域包括ケアネットワークを支える不可欠のアイテムとなることは明らかであろう。

さらに言えば、医療ITには、医療のあり方を劇的に変えていく可能性がある。「診断治療-臨床」の場面だけではなく、在宅(地域)と病院の機能分担、医療提供体制のあり方、さらには日常的な健康管理・予防まで含めたトータルな意味での医療ケア-「ヘルスケア」-の形を大きく変えていく可能性がある。

果たして日本の制度や政策、人々の意識はそれに付いて行けているだろうか。すでに未来は目の前に現れている。我々に残された時間は少ない。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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