こくほ随想

ポストコロナのまちづくり

今回のパンデミックで、人々の日常生活は大きく変容した。仕事は会社でするもの、毎日会社に通勤してそこで同僚と共に仕事をして夜は家に帰って自分の時間を過ごす、そんな生活がロックダウン(日本の緊急事態宣言は「ロックダウン」ではなかったがほぼ同様の事態になった)で一変する。在宅勤務(リモートワーク)が普通の働き方になり、むしろ「ポストコロナの新常態」として定着しつつある。「オン」「オフ」の境目がなくなり、人々の時間の使い方、服装、食生活、購買行動、あらゆることが大きく変わった。ポストコロナの世界は、もう旧に復することはないだろう。

行動制限が強化される中で、人々のコミュニケーションの姿も大きく変わった。日常生活の中でも対面での接触が減り、ソーシャルメディアの比重が大きく高まった。このことは、社会的生き物である人間の意識に大きな影響を与える。地域社会の姿もまた変わっていくことになる。

国連の推計(2018)によれば、世界の人口の約55%は都市生活者で、2050年にはその比率は70%に達するという。これまで、都市化の課題といえば人口集中による渋滞・混雑・大気汚染などが指摘されてきたが、新型コロナによる行動制限によって問題状況が一変した。人々は、これまで当たり前に思っていた生活様式、働き方、時間と空間の使い方に、別の選択肢があることを知り、それを実体験することで、今までのライフスタイルのあり方が大きく見直されようとしている。

人々の行動様式が変われば、まちのあり方もまた変わる。新しい生活様式に即した新たな都市の形、まちづくりのニーズが生まれる。

コロナ前から、地球規模の文明の持続可能性という視点から、脱炭素社会、SDGsが大きなテーマになっていたが、前回・前々回にも紹介したような、「等身大のまちづくり」の動きが欧州を中心に取り組まれている。

オーストラリア・メルボルン市は「20分生活圏」、パリ市は「15分生活圏」を掲げ、それぞれ徒歩や自転車で自宅から15分から20分の範囲で職場や学校、買い物、公園、病院など生活していく上で必要な都市機能に一通りアクセスできるような都市計画を進めている。ロンドンはすでに公共バス(例の赤いロンドンバス)を全てゼロエミッション車に切り替え、市内の主要幹線道路の車線を減らして自転車専用道や歩道に作り替えている。シンプルな交通手段が増えることは市民の健康促進と排気ガス削減につながる。

今や多くの欧州諸国では中心市街への自動車乗り入れ制限が行われていて、これによって市民がまちなかに集い、活気を取り戻している。路面電車が復活している都市も数多くある。

自宅や近隣のカフェ、ワークスペースなどを利用したテレワーク、シェアオフィス、働きながら休暇も取るワーケーションなど、働き方の多様化と分散化が進み、人々が自分の仕事と生活の状況(仕事の内容や子育て・介護など)に応じて仕事をする場所と時間を選ぶようになると、仕事と生活が同じ生活圏域の中で営まれるようになっていく。

そうなれば、住宅地とは夜だけ人々が帰ってくるようなベッドタウンではなく、地域社会で生活が完結していくような、新たなまちのあり方が形作られていくだろうし、そうしていかなければならなくなる。

等身大のまちは、これまでのような、都市への人口密集によるデメリットが改善されるだけでなく、さまざまな世代、さまざまなライフスタイルの人たち、子どもや高齢者など多世代が共存する空間を生み出す。このことは私たちが目指す地域包括ケアシステムの実現にもつながる。

「暮らし」を中心に組み立てられる新しい地域社会こそが、ポストコロナの新しいまちの姿になることを確信している。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

←前のページへ戻る Page Top▲