地方再生
-地域の自立について考える(上)
今回と次回、2回に分けて「地方再生-地域の自立」について考えてみたいと思う。
面白い話を一つ紹介する。フランスの片田舎での出来事である。とある働き者のパン屋が罰金を食らった。理由は「週7日休まず店を開けていた」から。働きすぎの罰金である。冗談ではない。本当にあった話である。
フランスでは、伝統的に商店は日曜と月曜が休みとなる。パリ市内でも観光客が集まるような場所は別として、普通の市民が暮らす地域では日曜と月曜、商店は原則開いていない。(ただし例外があって、パン屋だけは輪番でどこかの店が月曜に店を開けることになっている。こういうのも面白いところである。先程のパン屋はこのルールを守らなかった、ということなのだろう(笑)。)
商店は、開店日と営業時間を示した看板を入り口に掲示しなければならない決まりになっていて、「ouvert Mardi à Samedi, 11h a 19h」(開店日は火曜から土曜、11時から19時)といった具合で入り口の扉に看板がぶら下がっている。
Monoprix とか Franprix といったスーパーマーケットも例外ではない。なので、地方都市に行くと日曜・月曜は本当にどこも開いていない。カフェ・レストランの類も開いていないので下手をするとランチもディナーも食べ損なう。
もう一つ。日本には「商店街」というのがある。ヨーロッパの都市にも商店が集まっている「繁華街」はあるのだが、日本の商店街とはお店の構成が違うというか、ちょっと様子が違う。食料品、肉や野菜やチーズといった毎日の食材 daily foods は、町の中心にある広場に定期的(週2~3回)に立つ市場 marché で買う、というのが今でも(特に地方都市では)市民の普通の生活様式になっている。
で、この marché、単なる買い物の場ではない。買い物客の様子を見ていると、marché というのはそれ自体が社交の場であり、お店の主人や客同士が会話を楽しむ場であり、人と人との出会いを楽しむ場であり、言ってみれば「市民の日常生活の構成要素の一部」なのである。実際、marché を歩いてそこで買い物をしている市民の様子を見れば、そのことがよくわかる。子供の頃の「商店街」というのはこんな感じだったように記憶する。人々が集う場所、というのはそういうものなのだろうと思う。
余談だが、ヨーロッパでも近代になると大きな都市を中心に屋根付きの常設の市場が登場し、今日では土日や深夜も開けている大資本のスーパーやコンビニエンスストアも登場するようになった。私は東京生まれ東京育ちなので実感としてよくわかるが、大都会に住む人たちの時間の流れ、生活のリズムはどんどんはやく、忙しく、効率的に、そして「24時間化」していく。東京だって昔は深夜に開いている店なんてほとんどなかった。
人の生活が変われば、町の姿も、商店もそれに合わせて変わっていく。最近ではヨーロッパの地方都市でも(特に観光地などでは)土日も開けている都会の大型スーパーが進出しているのを見かける。これも世の中の流れなのかもしれないのだが、それでも、パリやロンドンといった大都市でも、大手スーパーに伍してまだ個人営業の小さな商店、カフェやパブがあり、定期的に立つ marché が町のあちこちにあって、地域住民たちの生活を支え、そしてしっかり賑わっている。
何が言いたいかというと、町というのは人々の生活の場であり、地域社会-そこに住む人々によって構成される「コミュニティ」-にはそこに住んでいる人の生活のリズム、時間の流れ、空間の広がり、サイズというものがある。なので、町というものは、そこに住む人にとって等身大、身の丈に合ったものになっていないといけないのではないだろうか。そのことを感じさせる経験を在外生活中にした。その話は次回に。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉