こくほ随想
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交渉力のお話今回は夏休みということで、国保の話を離れた話題提供をしたい。私が役人時代に学んだ「交渉力」の話をしようと思う。 役人の仕事は、極言すれば「利害調整」「合意形成」である。なので「交渉」「折衝」に長けていなければ仕事はできない。 交渉とは立場や利害の異なるもの同士が自身の利益の最大化を目指して行う対面行為である。言ってみれば武器を使わない戦争のようなもの、故に交渉の基本は兵法に学ぶ必要がある、というのが私の結論である。 ■敵を知り己を知れば百戦危うからず交渉は事前の情報収集でほぼ80%以上勝敗の帰趨は決まる。対面折衝で一発逆転、なんてことはまずない。対面折衝に至るまでの間に何をするかが大事である。すなわち交渉力の基本は情報戦、インテリジェンスである。 ■相手を知るできる限りデータを集め、過去の事象を調べ、相手の行動様式と思考パターンを把握し、相手の「力量」を客観的に把握する。彼我の力量と状況を見極め、負ける場面、勝ち目のないポイントでの勝負はしない。自身が不利な場面ではできるだけ「分け」に持ち込むことが基本。格闘技と同じである。 ■相手の真の利害を知る相手が本当に欲しいもの、取りたいポイント、譲れない一線は何か。それを知れば相手の交渉のロジック(交渉の組み立て・手順と手札)が把握できる。相手の交渉のロジックと手札が分かれば、相手の強みも弱みも分かる。相手の欲しいものをできるだけ高く売り、譲歩を引き出す。 ■交渉相手を味方に付ける「手強い」と思わせることも大事だが、「こっちのことを分かってくれている」と思わせることも同じくらい大事である。むしろ気持ちを通わせることで折衝はきわめて有利になる。内部情報をとることももちろん重要であるが、そのためにも相手の中に味方を作ることが重要で、窓口になっている交渉相手は取り込んで味方につけることが肝要である。 ■複眼思考の重要性交渉とは一面では合意形成のプロセスでもある。交渉というとどうしても勝ち負け、ゼロサムと思いがちだが、実際はそうではない。いかにお互いの利益を最大化させるか、今風に言えばwin-winの関係を構築するかが重要である。 1+1が3になることもある。お互いの利害が一致しているものは、合意してしまえばよい。そこに新たな価値が生まれることもある。真に争うべきポイント、ここだけは譲れないというポイントにしぼって勝負する。 交渉に100%はない。「完勝」を目指してはいけない。80点とれれば望外の大勝利くらいに思った方がよい。何を取り、何を譲るのか。交渉の組み立てと出口イメージをきちんと持って交渉に臨むことが重要である。 ■闘わずして勝つ実際の戦争も似ている。武力行使/武力衝突は最後の手段である。人的物的損耗の大きい実戦はできるだけ避け外交交渉で決着を図る、というのが紛争解決の基本である。戦国武将の行動様式をよく学ぶべきである。彼らは決して無駄な戦闘はしない。目先の戦闘に勝利しても味方の損耗の方が大きければ何の意味もないからだ。 ■時系列を重視する単発の交渉で勝利しても、その次に続かなければ意味がない。折衝は一回では終わらない。繰り返し折衝を重ね、ポイントは絞り込まれていく。折衝レベルも上がっていく。交渉過程のどこでどのカードを切るか。どこでレベルを上げ、誰にカードを切らせるか。その組み立てが重要になる。 ■そして最後に大事なこと大きな戦略をきちんと立てると同時に、折衝過程のシナリオ・戦術を考えること。それが勝利への道である。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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