こくほ随想
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審査支払機関の改革改正支払基金法が今年4月に施行された。審査支払機関改革は医療保険に関わる規制緩和・行政改革の中で長年議論されてきたテーマであり、今回の改革では、支払基金の改革と合わせて、国保連についても審査事務高度化の基本計画が策定された。改革の内容は多岐にわたっており、審査支払機関の改革をめぐる議論はこれで一区切りがついた、というところであろう。 実はこの議論、個人的に私は昔から少し違和感があった。もちろん事務の効率化や組織体制の見直しは不断に進めるべきことなのだが、議論の前提、つまり今の日本の審査支払システムは極めて非効率・高コストで組織再編を含む抜本的な改革が必要だ、という規制改革推進会議の問題認識に素朴な疑問を感じていたからである。 アメリカの医療制度と比較して考えてみよう。アメリカの医療制度には様々な問題があるが、事業運営上の最大のコスト要因は、医療機関にとっても保険者にとっても、請求・審査(査定)・支払の事務なのだ。 周知のようにアメリカの医療制度は高齢者と低所得者を除いて民間保険会社が保険者で、それぞれ様々な保険商品を売っている。 商品ごとに適用範囲も償還価格も条件も違う。商品の数だけ点数表があり、患者ごとに請求できる医療費の範囲も請求様式も請求相手(保険会社)も異なる、ということだ。 従って医療機関サイドの「費用請求」事務は膨大なものになる。何せ患者ごとに請求相手も請求様式も報酬基準も違うから、保険会社の数だけ、保険商品の数だけ請求様式・請求条件があってそれに合わせて何通りものシステムを用意しなければならない。アメリカの病院の事務部門はとても大きい。 加えて、実際に起こっていることは、医療機関は請求できるだけ目一杯請求し、保険会社は査定できるだけ目一杯査定する、というバトルだ。請求側も査定側も膨大なマンパワーとコストをかけて、このバトルを日常的にやっている。 そのコストたるや膨大なもので、総医療費の8%に達する。アメリカの医療費は対GDP比20%になろうかという膨大なものだから、GDPの2%近く、日本に置き直せば10兆円近いコストが事務経費にかかっていることになる。となれば、医療事務の効率化・IT化は非常に大きなコスト削減効果を生む。だからアメリカでは医療事務の効率化・IT化は医療改革の大きなテーマになるのだ。 翻って日本。特殊な医療を除けばほぼ全ての医療行為は保険適用。診療報酬は公定価格でどの保険者でも一律。請求先も(保険者が幾つあろうが)2箇所(基金と国保連)だけ。患者がどこの保険に入っていようと医療機関側の請求事務は基本的に全部同じ。請求様式も同じ、診療単価も同じ。 審査支払機関側も、審査基準は一律(療養担当規則と点数表・疑義解釈)。むしろ支部ごとに査定基準が違うことが問題になるような世界だ。 日本の総医療費に占める審査支払コストは1%強。そもそも日本の医療費はマクロで見てもミクロで見ても安い。医師の報酬も国際標準から見たらささやかなもの。その安い総医療費の、たった1%しかならないのだ。 もちろんレセプトの電子化やシステム全体のICT化はとても大事なことで、今後も積極的に進めていくべきだと思うが、ICTやビッグデータの話はもっと他のところで大きな付加価値を生むもので、既存事務の効率化やコスト削減の視点からだけで議論するのはその重要性を矮小化することになりかねない。 議論すべきはもっと大きなところ、審査支払の大前提である診療報酬体系や本来の意味での保険者機能・権能をどうするか、というところにあるのではないだろうか、というのが私の印象である。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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