こくほ随想

こくほ随想

地域包括ケアシステムにおける
「Community-based care」の考え方

わが国の地域包括ケアシステムは、「Community-based care」と「Integrated care」という2つのコンセプトを結合させることで、公が地域レベルの健康・医療・社会的サービスの機能の統合をすすめるという形態であるが、同様のシステムを持つオランダではこのシステムの構築は、相当に困難であるとされている。一方、英国では、公からの上意下達方式によって、運営されてきたコミュニティにおけるケアのあり方を住民主体に変える改革が進められている。これは、2006年に発表された英国の「Our health, our care, our say: a new direction for community services, Cm6737)」にも示され、地域住民自身の「Self help(自助)」と住民自治を基盤とする、いわゆる互助を含めた地域の立て直し施策といえる。

日本のケア施策も、英国と同様に上意下達方式が主流といえるが、2009年、2010年に発表された地域包括ケア報告書の中では、公の報告書としては、はじめて「互助」への言及がなされ、わが国でも新たな地域でのケアの在り方が模索されつつ、地域包括ケアシステムが構築されている。

このような地域におけるケアのあり方が検討されることとなった契機は介護保険制度の施行からみれば、2005年の介護予防事業の重点化であり、医療保険制度側からみれば2006年に示された地域完結のネットワーク型連携の提案であった。

この改革は、厚生労働省医政局に設置された「医療計画の見直し等に関する検討会」で医療提供サイドからの医療機関の階層型連携を念頭に置いたものであり、これまでの医療計画を「地域」の患者を中心とし、かつ医療機能を重視した形での柔軟なネットワーク型連携へと転換することを主とした提案であった。つまり、患者の病期に着目し、地域にある医療機関、介護サービス提供者、行政などのそれぞれの有する機能を最大限発揮しながら、一人の患者に関与していくという地域完結のネットワーク型連携が指向されたシステムであり、integrated care を地域で実現させることを意味していた。

しかし、この新たな医療体制の構築に際して、地域の実情に応じた各医療機関の機能分担と連携や、介護保険制度に関わる機関との連携は不充分であった。また英国のような自助重視の取り組みも徹底されなかった。

これは政府のこの種の政策担当者らが国家による社会保障制度の持続の困難さを国民に充分に理解してもらうという点で配慮不足であったし、国家機能が低下していることに対する国民の認識の欠如といえるかもしれない。

米国では、「あなたが国家から何をしてもらえるかでなく、あなたが国家のために何ができるかを考えよ」ということは一般的な市民にとっては、常識であり、「自助」を前提としたcommunityを基盤とするstateと、その集合体として国家が成立している。

一方、今日、国家としての機能を失った国から脱出しなければならない人々の増加は、欧州をはじめとする多くの国における深刻な問題となっている。こういった政治あるいは経済難民の大量の発生は、その受け入れと、受け入れ側の国民との間での様々なコンフリクト、そして、これらによって起こりうる相互の側の人々の不満と不安感によって、さらなる混乱を生み出している。この状況は改めて国家とは何かを問い直すべきであることを想起させるに十分であろう。

また、これまで富の再分配は国家の役割であったが、今日においては、必ずしも国家のみにこの機能を頼る必要がなくなっている。なぜなら、世界の富の48%を所有している超富裕層が彼ら独自の富の分配システムを構築しつつあるからであり、このような状況もまた、国家というシステムの意義を問い直す契機を与えている。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

←前のページへ戻る Page Top▲