こくほ随想
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医療保険や介護保険のこれから国家が担うべき医療保障の範囲の決定に際しては、医学的妥当性や安全性という高度な専門性の下で判断される事項と費用対効果という、とくに判断が難しい内容を含む。それでも日本をはじめ多くの先進国は、これらの困難な内容すべてを考慮しながら、新たな医療保障のあり方を検討しなければならない状況にある。 これまでも述べてきたが、日本の公的医療保険の給付対象は諸外国に比較するとかなり広い。このため、民間保険会社が「治療費」を保障するような本格的な商品を開発しなくてもよい状況であった。 だが、これからの国家財政を冷静に分析すれば、他国と同様に治療費そのものを保障する保険が検討される時期となっているといえよう。民間がこういった本来の意味での保険商品を提案することになれば、これまでの差額ベッド代や収入を保障する、あるいは、要した医療費について、現金で償還するという保険商品ではなく、本格的に商品としての医療サービスという現物を給付することが考えられていくことになる。 このような商品取引は、すでに米国で実現しているが、これが日本で実現すれば、患者の行動、すなわち受療行動には極めて大きな影響を与えることが予想される。 例えば、病気になると、まずは患者が保険料を支払っている保険会社に病状を説明し、相談することになり、保険会社は、この相談に対して、患者に適切な医療機関を紹介するという行動へと変わる。こういった受療行動の変化は、現行の民間保険会社の経営やその戦略を抜本的に変更することになる。 つまり、保険会社は自らの商品を購入する顧客(患者)に対して、できるだけ質の高い医療サービスを提供できる医療機関を紹介したいと考えるようになる。そして、効率の良い医療経営をしている医療機関とのネットワークの拡大が経営の基本となるだろう。 なぜなら、この仕組みの中では、良い医療サービスを提供する医療機関を紹介できない保険会社は患者から選ばれなくなるからである。また、当該保険会社のネットワークが質は高いものの、コストも高い医療機関ばかりでは、保険料が高くなってしまい、これも顧客からは選ばれない。このため、保険会社としては、医療サービスの質が高いだけでなく、同様に経営の質も高い医療機関を自らのネットワークの下に置きたいと考えることになる。これは、医療機関に対しては、新たな経営のあり方を要求することとなる。 しかしながら、民間保険会社による保険商品の現物化という考え方は、公的医療保障制度によりカバーすべき医療リスクをどの範囲までとするかを正面から議論するということなくしては成立しない。最近、こういった困難な取り組みを行ってきたのがオランダであることは前回で紹介したが、「community-based integrated care」、すなわち日本でいう「地域包括ケアシステム」という取組みの構築と同時に導入したことには留意すべきであろう。 さて、個人(患者)の代理人として医師や医療機関との間に立ち、治療や薬剤の適正価格のあり方と医療の質の改善にむけた取組みの役割を担うのは保険者である。これまで、繰り返し述べてきたように、保険者はわが国の医療制度の持続にとって極めて重大な役割を果たすことが期待されてきた。 ただ残念なことに、この保険者機能を十分に発揮することが想定されないままに、日本では医療保険制度の抜本的な改革がなされようとしている。また一方では、介護保険制度では市区町村にこの保険者機能の一部を持たせるという制度設計がなされている。 このように、今日、医療や介護サービスを保障するための制度における保険者機能の強化は、国策となった地域包括ケアシステムの構築と推進において、極めて重要な事項と認識されつつある。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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