こくほ随想

日本の医療保障制度が抱える課題と今後のあり方 その3
~サービス提供体制の改革の必要性~

高齢化の進展と医療技術の進歩により医療費のさらなる拡大が予想されている。今日、医療費は経済成長を上回る速度で拡大し、OECD加盟国の平均医療費の対GDP比は、1960年の3.8%から、2010年には9.6%まで上昇している。このような状況下で、いわゆる医療の質を低下させずに医療費を適切な価格とし、医療の効率性を担保するための方策が求められている。

さて日本の一般病床における平均在院日数は、2000年の24.8日から、2010年は18.2日となり、徐々に短縮している。しかし、2011年のOECD加盟33カ国の平均在院日数は約8日で、5日を下回る米国の4倍近く、ドイツ9.5日、フランスの5.7日に比較してもかなり長く、世界最長である。

このため日本では、この顕著に長い平均在院日数にかかる費用を補填するために、いわゆる「定額給付型」の民間医療保険が広く普及している。ここでいう定額給付機能とは、公的医療保障制度が保障する範囲とはリンクせず、入院一日あたり定額を給付したり、がんに代表される特定の疾患に罹患した際に定額を給付したりする機能である。

これは、日本では、公的医療保障制度の保障範囲が広いことや受診時負担に一カ月あたりの上限額が設けられ、過重な自己負担が生じない仕組みとなっていることや、公的医療保険の適用とならない診療と保険診療の併用についても厚生労働大臣の定める「評価療養」と「選定療養」についてのみが認められ、公的医療保険の給付対象外となる医療サービスの供給量が少ないためである。

他のOECD諸国の民間医療保険がいわば、「実損填補型」を中心に発展していることを鑑みると、このことはかなり異なった状況にあるといえる。

このような状況下においても疾病入院給付金が支払われる生命保険の加入率は、1995年の71.7%から、2009年の直近のデータによれば72.3%と上昇しており、定額給付を中心とした民間医療保険は広く普及している。

以上のような実態を鑑みると公的医療保険を基盤としながらも、制度に内在する課題を「実損填補型」民間医療保険が補うといった新たな構図を検討できる土壌ができつつあるともいえる。すなわち、今後は、日本においても医療保障制度の持続性を高めるために、欧州で取り組まれているような民間医療保険の利用方法も含めて検討することが求められることになるだろう。

これまで、保険の起源に言及しながら、これからの医療保障制度の在り方として、公的医療保険だけでなく、民間医療保険の状況も紹介してきた。

すでに9割が民間の保険制度に加入しているという実態を踏まえると、公的医療保障制度の持続可能性を高めるためには、民間医療保険制度の活用を含めた新たな医療保障制度の再構築が検討されなければならないということであろう。

今日、先進諸国において、公的医療保障制度の持続可能性を高めることは大きな課題である。とくに急性期医療を主とした医療制度を構築してきた国においては、これから医療サービスと介護サービスを必要とする高齢者の増大に合わせて新たなサービス提供体制への改革を実行する必要がある。

「四門出遊」で示された人類共通の課題は、時代が大きく移り、国のあり方も異なっても、その本質は変わっていない。人々は保険という仕組みを発明し、これを利用することで、人が必ず向かい合う、老、病、死に対する恐怖への耐性を強めようとしてきた。そして、この保険という仕組みを国によって制度化させ、一般化することに成功したわけだが、それでも人々の老、病、死への恐怖は軽減されることなく、いや、むしろ強くなり、継続しているのかもしれない。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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