こくほ随想

高齢社会のコンシェルジュの育成

最近、高齢者の生活の質(QOL)が取り沙汰されることが多い。QOLは、生命の量を意味する長寿に対して一定の目途のついた国々で、生命や生活の質を問題にしていくための概念である。QOLにどのような構成要素があるかに関しては学者による違いがあるが、次の4つにまとめるのがニートであり網羅的でもあると考えられる。

(1)生活機能が自立していて、それを維持していくようなライフスタイルをもっている (2)自分の健康や認知能力に確信がある (3)生活環境の充実 (4)主観的QOLが高い。つまり人生や生活についての満足度が高い。

今回はこの(3)の問題について考えたいと思う。生活環境には物的環境と人的・社会的環境がある。これらを総合した街づくりが21世紀の基本戦略となる。それは次のようにまとめることができる。

  1. 物的環境:公共建物・広場、道路、乗り物、住居、生活・福祉用具
  2. 社会的ネットワーク(拠点):地域包括支援センター(公助)、自治会・NPOなど(共助)、コミュニティカフェなど企業の連携・ICT
  3. 人材派遣:リーダー、ボランティア、コンシェルジュの育成

物的環境の充実はもとより大切であるが、「仏つくって魂入れず」のたとえもあるように、その中身とソフトに工夫がなければ空転するのみである。自治体の取り組みをみても、建物とICTは整備したけれども地域住民に伝えるべき内容の吟味はないといったパタンも少なくないのである。

筆者は3.にあげたコンシェルジュの育成がきわめて重要であると考えている。わが国の学問にも制度・施策にもタテ割りの弊害が露呈している。医療においてもそれが著しい。わが国には、欧米型の家庭医のシステムがないので、住民は病気になると自己判断で医療機関を探さなければならない。いきなり大学病院を訪れるケースもある。大学病院に相談窓口のあるところも増えたが、患者の自己判断で診療科を選ぶ場合が多い。見当違いの科を受診し、「あなたの病気は当科ではない」などと叱られることすらある。叱られるべきはコンシェルジュ機能を具備していない大学病院の方なのに、アベコベの顛末となってしまう。

高齢な住民の抱えている問題は、複合的でもあり錯綜もしているのがふつうである。自分の抱えている問題を医療機関で相談すればよいのか、福祉機関で相談すればよいのかさえ判断できないことが少なくない。グローバルな相談窓口が必要となるのである。また、成年後見などもすべて専門家まかせになっているため、その恩恵にあずかっている人はわずかである。

高齢社会の「生・活(いき・いき)」事典

筆者たちは、高齢社会で機能できるコンシェルジュ育成のための検定試験をスタートさせた。図に示すようなテキストも作成した。このテキストを学び知識検定をクリアすることが第一歩となる。その知識は加齢変化や高齢者、そして高齢社会に対する理解とそれを応用するノウハウを身につけることである。このノウハウはシニアビジネスにも、ボランティア活動にも家庭内のケアにも有用となる。

この検定に合格した後、御本人のその他のスキルや資格を統合することにより、コンシェルジュとして活動できるようにする道筋を考えている。その能力が職場で生かされることもあり、また一種の有償ボランティアとしての活動にも生かされる仕組みも考える必要があるだろう。コンシェルジュの経歴や能力によっては、経済的な相談も可能となるかもしれない。コンシェルジュ機能は公助ではなくあくまでも共助であるが、専門性が必要とされてきている。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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