こくほ随想
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罰を与える健康施策最近のホットな話題に、デンマークが飽和脂肪酸を2.3%以上ふくむ食品に課税したことがある。バター、チーズ、牛乳などの乳製品、肉類、食用油、加工食品などが対象となっている。 1ヶ月ほど前は、ハンガリーが国民の健康の増進と税収を目的として「ポテチ税」なるものを導入した。塩分、糖分、脂肪分の多い食品に課税をして、健康増進と経済活性という2つ連立方程式を一挙に解こうということらしい。 実はわが国にもこれと似た発想が少なくない。厚生労働大臣がタバコの増税をして1箱800円にしたいと述べたことは記憶に新しい。 かなり以前から、メタボ改善に失敗した職員は減俸させられたり降格させられたりする企業が目立ってきている。健康食品関連の企業にその傾向がつよい。自治体の例は多くないが、メタボ改善に挑戦中の管理職の死亡例まで出した自治体もある。 実は、健康の目的のために罰を与えるというやり方は、喫煙に対する魔女狩り的仕打ち以前には、現代社会では希であった。身分社会においては、病人は罪人と一緒に焼き殺された記録もある。また近世の「夜明け前」には、精神障害者は座敷牢に隔離されていた。しかし、そのような差別を克服したのが近代社会であった筈である。 行動療法の分野にオペラント条件づけという方法がある。インセンティブを与え動機づけをすることもこの応用である。動物を調教するとき、上手くいくと餌を与えるやり方もその1つと考えてよい。 これらは飽くまでも、良いことやほうびという手段でモチベーションを上げようとするやり方である。罰を与えて動機を上げようという手法は、テキストには載っていない。したがってこのようなやり方が上手くいくことが実証されたことはないのである。 このような基本的な問題をさておいても、飽和脂肪酸を有害視する発想そのものが栄養疫学的に間違っているのである。図はハワイの日本人の中高年男性8,000名を9年間追跡調査した研究結果である。研究開始時に栄養調査を行い、脂肪分のとり方がその後の総死亡率と脳卒中死亡率にどのように影響したかを分析したものである。 脂肪、とくに飽和脂肪酸の少ないことで、総死亡率も脳卒中死亡率も著しく高くなることが示されている。ハワイの日系人の食パタンは欧米人と日本人の中間にある。当然、日本人にもこれと同じ傾向がある。デンマークの施策が日本人の心理に悪影響を与えることのないよう希望する。
文献:柴田 博『ここがおかしい日本人の栄養の常識』(講談社、2007年) 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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