「医療制度改革(3)」
―どうなる国保、どうする国保―
全国一本より市町村単位の方が公平
医療保険の保険者は、国保が市町村単位なのに対し、政管健保は全国一本である。ところで、一人当たり医療費の地域格差をみると、最高が北海道赤平市の六九万四二三円に対し、最低は東京都小笠原村の一七万二、〇三四円である(平成十四年度)。単純化して言えば、赤平市の被保険者の方が四倍も医療費を使っていることになる。この場合、国保は市町村単位となっているので、小笠原村の国保の被保険者は、原則として、赤平市の被保険者の四分の一の保険料負担で済むことになる(実際には、調整交付金等の影響で、そうはなっていないが)。これは、使った医療費(受益)に応じた負担という意味で公平である。
他方、政管健保の被保険者の場合には、事情が違う。政管健保は、全国一本の保険者となっているため、全国どこに住んでいても保険料率は同じである。小笠原村には診療所しかなく、被保険者は、遠く離れた都心まで行かなければ高度な医療は受けられない。それにもかかわらず、小笠原村の政管健保の被保険者の保険料負担は、病院のある赤平市や都心に住む被保険者と同じである。これでは、公平とは言いがたい。
都道府県単位での保険者の再編・統合
今回の医療制度改革では、都道府県単位での保険者の再編・統合が一つの柱になっている。このため、政管健保については、国とは切り離した全国単位の公法人である全国健康保険協会を新たに設立し、都道府県ごとの保険料を設定するなど、都道府県単位の財政運営を行うことにしている(平成二十年度~)。
個人が病気になったとき、軽い病気であれば近くの診療所や病院に行くであろうし、重い病気であれば大きな病院で診てもらいたいと思うであろう。このように考えると、個人の受療行動は、市町村単位よりも二次医療圏ないし都道府県単位で捉えた方が適切である。したがって、都道府県単位で政管健保を再編・統合するというのは、理にかなっていると言えよう。
他方、今回の改革では、国保については、 共同事業の拡充を図るとともに、保険者支援制度等の国保財政基盤強化策について、公費負担のあり方を含めて総合的に見直し、都道府県単位での保険運営を推進するとされている(平成十八年度~)。この限りでは、保険者は市町村にしたままで、財政基盤だけを都道府県単位で強化しようという方向のようにみえる。
全国一本の制度を目指す国保関係団体
しかし、国保中央会や全国市長会、全国町村会は、従来から公的医療保険制度を一本化すべきであると主張し、今回の医療制度改革案に対しても、医療保険制度の一本化へ向けた道筋を示すべきであるとの意見書を公表している(平成十七年十月二十六日)。
低所得者や無所得者が多く、保険料徴収もままならない国保の運営に市町村が大変な苦労をしていることは、よくわかる。しかし、本当に国保を全国一本にすべきなのだろうか。
どうする国保制度
全国一本の制度が公平な制度と言えないのは、これまでの政管健保と同じである。さらに、今後高齢化が進む中で、地域住民の健康管理は市町村にとって重要な課題となるはずである。そのためには、国保の保険者として、保健事業を通じた健康管理が貴重な手段になる。また、保険者であれば医療提供体制に対する発言権も確保できるし、介護保険との連携も、市町村国保だからこそできるという側面があるのではないか。このように、地域住民にとっても大事な制度である国保制度を全国一本にするのがよいのかどうか、せめてこのコラムの読者の皆様には、真剣に考えていただきたい。
最後に、「こくほ随想」の私の担当は、今回をもっておしまいになる。読者の皆様の一年間のご愛読に心から感謝をしたい。