「滞納問題を考える(2)」
―国保の方が重い滞納の責任―
なぜ国年の滞納が政治問題となったのか
昨年、マスコミは政治家の国民年金保険料未納問題を大きく報道し、政治家の中には公職を辞してその責任を取った者もいた。だが、年金保険料の未納はそれほど重大問題なのだろうか。今回は、その理由を考えてみたい。
年金改革法案審議中という政治状況
第一に、当時の政治状況がある。政治家の滞納が問題となったのは平成十六年の年金改革法案が審議されていたときである。国民に痛みを伴う改革を行おうとしているのに、これを審議・決定する立場にある政治家自身が年金保険料を納めていなかったとは何事だということになる。
全国民で支える年金制度
第二に、より一般的な責任論がある。基礎年金は、皆年金の基盤をなす制度として、二十歳以上の全国民が加入して支え合うものである。急速な高齢化が進む中で、国民が連帯して保険料を支払い、年金制度を支えなければならないにもかかわらず、国会議員自身が保険料の納付義務を果たしていないようでは、国民の負託を受けた選良たるに値しないという議論である。
国年の滞納で被用者年金の負担が増大
第三に、基礎年金拠出金の問題がある。基礎年金に要する費用は、第一号被保険者(農業、自営業者等)だけでなく、第二号被保険者(被用者本人)と第三号被保険者(被用者の被扶養配偶者)も平等に負担している。
このとき、保険料を滞納している第一号被保険者は負担者の頭数に算入されないため、第一号被保険者の滞納が増えれば被保険者一人当たりの負担が増え、その結果、第二号及び第三号被保険者の頭数に基づいて負担する被用者年金の基礎年金拠出金負担が増えることになる。ただし、この問題は、経済界やその意を受けたマスコミが第一号被保険者(国民年金)の滞納を追求するときの理由であって、政治家の責任問題とは直接の関係はない。
国年の滞納は年金額の減額で決着
さて、以上の理由のうち、第一の理由は、一時的なものにすぎない。問題は、第二、第三の理由であるが、これに対しては以下の反論が可能である。
確かに、国民年金の被保険者が保険料を納めないと、他の被保険者の負担にはね返ることになるが、前回述べたように、その分基礎年金額も減額される。このため、保険料の未納は、短期的には拠出金単価を上昇させるが、長期的には未納分の年金給付費が減るため、拠出金単価はそれほど上昇しないのである(法研「厚生年金・国民年金数理レポート 一九九九年財政再計算結果」二二四頁以下参照)。
もちろん、未納者の年金額はその分減額されるし、二十五年間の拠出期間を満たさなければ無年金となってしまう。しかし、それは自分の判断に基づく自己責任である、と考えることもできよう(ここでは、保険料を払えるのに払わなかった者を前提にしている)。こう考えると、国民年金保険料の滞納は、年金額の減額という形で決着しているのであり、むしろ自らの選択で低年金・無年金となった者が税金を財源とする生活保護を受けることの方が問題となってくる。
国保の滞納の方が責任重大
他方、国民健康保険は市町村単位で運営されているものの、皆保険を支えているという重要性は基礎年金と変わらない。高齢化で医療費が増大する中で、国全体か市町村単位かという違いはあるものの、被保険者が連帯して制度を支えなければならないという点も同じである。前号で述べたように、国民健康保険の滞納の方が、まじめに払っている被保険者に負担を転嫁するという意味で責任が重いはずである。こう考えると、国会議員はもちろんのこと、市町村議会の議員に対しても、国民健康保険料の滞納があったかどうかを厳しく追及しなければならないことになる。