こくほ随想

「滞納問題を考える(1)」
―国保、国年、介護保険の違い―

増え続ける滞納

「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」とは、有名な石川五右衛門の辞世の句だが、国民健康保険の世界で尽きぬものといえば、保険料の滞納であろう。平成十五年度における市町村国保の保険料(税)収納率は、九〇・二%と前年度を〇・二%ほど下回り、過去最低を更新している。国民健康保険制度が被保険者の保険料で成り立っていることを考えれば、これは制度の根幹を揺るがす大問題である。

 

同じく自営業者や農業者などの非被用者を対象とする国民年金でも保険料の納付率は年々低下しており、平成十五年度には六三・四%と、前年をやや上回ったものの、最低水準を維持したままである。しかも、国民年金保険料の未納は、内閣官房長官や野党の代表を辞任に追い込むなど政治的な影響力も大きい。

 

そこで、今回から、政治的にも問題となった社会保険における「滞納」問題を考えてみたい。

 

国保の滞納分はまじめな被保険者に転嫁

周知の通り、国民健康保険は短期保険である。このため、その年に見込まれる医療費等の支払いに要する費用のうち、国庫負担等で賄う分を除いたもの(賦課総額)を保険料として徴収する。このとき、賦課総額を被保険者の頭数や所得等に応じて単純に割り振って保険料率(額)を計算し被保険者から徴収したら、滞納者の分だけ保険料収入に穴が空き、医療費の支払いに支障が生じてしまう。このため、市町村の実務では、滞納率がどの程度かをあらかじめ見込んでおき、その分だけ賦課総額を膨らませるという作業をする。例えば、収納率が九〇%の場合には、賦課総額を一一%ほど膨らませて具体的な保険料率を計算するのである。これはすなわち、滞納者が払わない分を、まじめに保険料を払っている被保険者が一割ほど多めに負担して穴埋めするということを意味している。

 

国保では滞納者も給付水準は同じ

しかも、国民健康保険の場合、保険料を滞納しても、保険給付の水準は七割のまま変わらない。ただし、悪質滞納者に対しては、被保険者証に替えて被保険者資格証明書を交付することにより、滞納者は医療機関の窓口で医療費の全額を支払い、後に保険者から七割分の払い戻しを受ける償還払い方式に変更することができる。さらに、後で支払う保険給付から滞納保険料分を控除することもできる。

 

国年の滞納分は年金額が減少

他方、国民年金の場合には、長期保険として、保険料の拠出実績が年金額に反映する。例えば、保険料の拠出期間四〇年のうち三〇年しか保険料を払っていなかった者は、基礎年金月額六・六万円の四分の三に当たる四・九五万円しかもらえないことになる。このように、国民年金の場合には、保険料を払わなかった分は年金額が減るという形で本人にペナルティが課されるのである。国民健康保険よりも、自己責任を問う仕組みになっている。

 

介護保険では給付率を引下げ

介護保険も、滞納問題に対して国民健康保険より厳しい仕組みを導入している。

まず、六五歳以上の第一号被保険者が保険料を滞納した場合には、居宅介護サービス費等の支給に係る指定事業者による代理受領を禁止して償還払い方式に切り替え、さらには保険給付から滞納保険料を控除する。ここまでは、国民健康保険と同じである。

 

さらに、保険料の滞納が続き、保険料徴収権が二年の消滅時効で消滅してしまった場合、介護保険では、時効消滅した期間に応じて給付率を九割から七割に引き下げ、さらには高額介護サービス費等を支給しないことにしている。国民健康保険では、時効消滅した保険料については、いわば過去の問題として帳簿から抹消してしまうのに比べると、格段に厳しい仕組みになっている。

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