こくほ随想

「介護保険と国保(2)」

市町村保険者案に対する市町村の反対

先月に引き続き今月は、費用負担面を中心に、介護保険と国保の関係を考えてみたい。

 

かつて介護保険制度を創設する際、保険者を誰にするかが大きな問題になった。関係者の多くは、介護保険制度が介護という地域に密着したサービスを提供するものである以上、住民に最も身近な自治体である市町村が保険者になるのが当然であると考えたが、市長会・町村会はこれに強く反対した。市町村は国保の保険者という重荷を背負っており、これに加えて介護保険の保険者という重荷を背負う訳にはいかない、というのが反対の理由であった。

 

このため、介護保険制度では、保険者たる市町村の負担を軽減するための様々な工夫を制度化し、ようやく市長会・町村会に保険者となることを了解してもらったという経緯がある。

 

保険料徴収負担等の軽減

このような工夫の一つに、介護保険料の年金からの天引きがある。これによって、市町村は、第一号被保険者の二割程度の者についてだけ保険料を徴収すれば済むことになった。そもそも介護保険財政の二分の一は公費によって賄われ、第二号被保険者の保険料は医療保険の保険者がまとめて拠出してくれるので、結局、市町村保険者は介護保険収入の三%程度に相当する保険料を第一号被保険者から徴収するだけでよいことになった。

 

また、介護保険では、三年を単位として保険料の額を決定しているが、これも、保険料引上げに伴う議会対策等の政治的負担を軽減するための工夫にほかならない。さらに、市町村の一般会計からの繰り入れを防止するため、介護保険では、都道府県に財政安定化基金を設け、保険料の未納や給付費の見込み誤りがあった場合には、ここから資金の貸付・交付を受けることができるようにした。

 

保険料負担面での厳しい仕組み

このほかの費用負担面における工夫としては、高齢被扶養者制度の非適用がある。医療保険制度の場合、年収百八十万円未満の高齢者は被用者保険の被扶養者となって、保険料を負担せずに医療給付を受けられる。しかし、介護保険は高齢者のための制度であり、世代間の負担の公平を図る意味でも、高齢被扶養者制度を適用せず、すべての高齢者が保険料を負担することにした。

 

また、保険料滞納者に対するペナルティも介護保険の方が厳しい。介護保険では、保険料の滞納があった場合に滞納保険料額と保険給付との相殺が行われるだけでなく、保険料の徴収権が時効消滅してしまった場合でも、その期間に応じて給付率が七割に引き下げられ、高額介護サービス費も支給されなくなる。

 

医療保険にどこまで取り込めるか

このように、介護保険制度は、それまでの国保の苦い経験を最大限生かして、市町村保険者の保険料徴収負担等を軽減するとともに、個々の被保険者に対しては、被保険者間の公平を保つため、保険料負担及び滞納の面でより厳正な仕組みとした。

 

来年に控えた医療保険制度改革では、このような介護保険制度の仕組みも念頭に置きつつ、公平で安定した医療保険制度を確立するための仕組みが検討されることになろう。年金からの保険料天引きや高齢被扶養者制度の廃止は新たに創設される高齢者医療制度に導入可能であろうし、三年の財政単位や財政安定化基金の設置、滞納者への厳しいペナルティは、国保制度改革の参考となろう。

 

新たな歴史の一頁を刻めるか

しかし、医療保険改革では、これらにとどまらず、これまでの医療・介護保険制度の発想を超えた新たな仕組みの構築が求められている。基本方針で示されている高齢者医療制度のための「社会連帯的な保険料」がそれであり、この仕組みが実現できれば、医療保険の歴史に大きな一頁を刻むことになろう。

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