こくほ随想

生保と国保

「セイホとコクホ」。音だけで聞くとよく似ていますが、漢字で書くと、生活保護と国民健康保険。一般では、だいぶ違う制度と考えられていることでしょう。地方自治体の組織でも、保護課と国民健康保険課と、所管課が異なります。やはり違う制度のように見えますが、実際には、関係が深い制度です。

 

近年、生活保護に対する関心が高まっています。ひとつは、長引く経済不況の中で生活保護受給者が増加を続けている現状があります。2003年3月現在で129万人、保護率は人口千人あたり10人と、平成の時代に入ってから最高の数値を記録しています。生活保護費は、約2兆800億円(平成13年度)となりました。こうした状況と、社会福祉基礎構造改革における社会福祉事業法等の改正の際に、生活保護のあり方について十分検討を行う旨の附帯決議が国会でなされたこともあり、厚生労働省保護課では現在、生活保護のあり方に関する検討会を開催しています。

 

もうひとつは、15年度予算編成のための「三位一体改革」の中で浮上した、生活保護費負担金の国庫補助率の引下げをめぐる議論です。厚生労働省では、省全体の補助金削減の割当て分2,500億円のうち、約1,700億円は、生活保護費負担金の国庫補助率を現行の 3/4から2/3に引下げることにより生み出す案を提示しました。しかし、地方自治体からは、単なる負担の付け回しではないかとの反対を受け、結局、補助率の見直しは今後の課題とし、来年度は公立保育所に対する補助金の見直しが行われることとなりました。

 

生保と国保の関係を見てみましょう。国保は、わが国が世界に誇る「国民皆保険」の基盤となる制度ですが、正直に言うと「国民の99%皆保険」というのが実態です。国民の約1%を占める生活保護の被保護者は、国保被保険者の対象外とされています(国保法第6条第6 号)。国保の被保険者には低所得者が多いのですが、被保護者は、生活保護を受給しなければ「最低限度の生活」を送ることができないという、さらに低所得者と位置づけられています。保険料や医療費の一部負担の支払能力がないというと、生活保護の適用が考えられてきます。生活保護費の内訳をみると、全体の 54%は医療費の助成である医療扶助です。生活保護制度は医療費保障でもある、という視点からみると、国保と生保の親近性がでてきます。医療機関を自由に選択できる国保被保険者と異なり、被保護者が医療を受けるためには、福祉事務所から医療券を入手してから、生活保護の指定医療機関にかからないといけません。医療保険制度の抜本改革が議論されていますが、この機会に、被保護者の医療機関へのかかり方や医療扶助をめぐる課題、低所得者に対する医療費保障としての国保と生保の関係なども、議論されてしかるべきではないかと考えています。

 

さて、生活保護制度については、「国民生活の最後のよりどころ」といわれながらも、一般にわかりやすい解説書がありませんでした。そうした中で、『プチ生活保護のススメ』(クラブハウス、2003年)は、生活保護制度の趣旨と仕組み、申請手続き、申請をめぐる一問一答など、大変平易に制度を解説しています。生保というと、受給自体が大変恥ずかしいこと、逆に権利として給付を受けて当然、など両極端の見方がありますが、この本の特徴は、観念論の議論ではなく、生活に困ったら臆することなく福祉事務所に相談に行き、職員から厳しいことを言われても自ら努力すべきことは努力し、生活建て直しのために生活保護を活用すべき、と「生保受給のマニュアル」に徹していることです。『ハリーポッター』の著者も、イギリスで生保を受けながら、世界的大ベストセラーを生み出したのですから、生保は、生活困窮に陥った人たちが人生をやり直すための手段としてもっと普通に活用されるべきものなのです。

←前のページへ戻る Page Top▲