共済組合担当者のための年金ガイド

公務員が2以上事業所勤務者になると、
社会保険の適用はどうなるのか?

複数の事業所に勤務する人に対する社会保険(厚生年金保険と健康保険)の適用のあり方等について、厚生労働省の「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」で議論されています(以下、「懇談会」と略す)。

この「懇談会」には、年金局長や保険局長も出席し、令和6年6月11日に開催された第7回目「懇談会」では、これまで出された議論について、意見交換を踏まえた論点整理が行われました。

「短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方」などについても、この「懇談会」で、議論の方向性が取りまとめられ、社会保障審議会の年金部会と医療保険部会に報告されることになっています。

「懇談会」では、とくに地方公務員共済組合の厚生年金保険(長期給付)と健康保険(短期給付)が取り上げられているわけではありませんが、来年(令和7年)の通常国会に、短時間労働者の適用拡大に関して、制度改正案が提出されてきたときに(筆者の予想では令和7年2月か3月頃)、影響が出てくることがあるかもしれません。

今月は、市役所に勤務するパートタイムの会計年度任用職員(臨時職員・非常勤職員)が、短時間労働者適用の企業規模の適用拡大で、勤務していた民間事業所でも社会保険が適用され、2つの事業所で、社会保険が適用されるようになったら、現状のしくみはどうなっているかを確認しておきたいと思います。
なお、ここでは適用関係を中心に述べていきますので、手続きの詳細については、各年金事務所・各共済組合にご確認ください。

あわせて、本稿は2022年8月号で記した「市役所で短時間勤務者、中堅スーパーで短時間労働者、医療保険・厚生年金保険はどうなる?」と一部内容が重複しますことを、あらかじめお断りしておきます。

市役所と民間事業所の2つの事業所に勤務すると、
社会保険の適用はどうなるのか?

市役所と民間事業所の2つの事業所に勤務して、いずれの事業所においても、社会保険(厚生年金保険・健康保険)が適用された場合の勤務条件・雇用契約の内容ですが、<モデル事例>ということで、【図表1】のように条件を設定しました。
さて、社会保険の適用はどうなるのでしょうか?

【図表1】2以上事業所勤務者の<モデル事例>
-市役所で短時間勤務者・民間事業所で短時間労働者-

■市役所で短時間勤務者(パートタイムの会計年度任用職員)

①週の所定勤務時間が20時間

②令和6年9月から6か月間の任用期間

③月額賃金が10万円(⇒標準報酬月額にすると98,000円)

④学生でない

医療保険(健康保険)は、
地方公務員共済組合の短期給付が適用となる
<令和4年10月以降から、協会けんぽではなく、
地方公務員共済組合の短期給付が適用されている>

厚生年金保険は、第1号厚生年金被保険者となる

■地元の民間スーパー(従業員60人で、令和6年10月から特定適用事業所となる)で短時間労働者(パートタイマー)

①週の所定労働時間が20時間

②令和6年4月から1年の勤務期間で雇用契約

③月額賃金が9万5千円(⇒標準報酬月額にすると98,000円)

④学生でない

医療保険(健康保険)は、協会けんぽが適用される
厚生年金保険は、第1号厚生年金被保険者となる

(注) 事例はあくまでもフィクションです。
市役所でも民間事業所でも、副業・兼業が認められているものとしています。

厚生年金保険はいずれも1号厚年、
月額賃金(報酬月額)は2つの事業所を合算し、
標準報酬月額を算定、保険料は按分

社会保険の適用は事業所ごとに判断されます。
【図表1】の<モデル事例>では、市役所に勤務する場合も、民間事業所に勤務する場合も、いずれも社会保険が適用される、短時間労働者の要件を満たしています。
したがって、2つの事業所ではいずれも厚生年金保険が適用されます。
ただし、市役所勤務では、正規の任用職員ではないので、第3号厚生年金被保険者にはなりません。パートタイムの会計年度任用職員(臨時職員・非常勤職員)に社会保険が適用される場合には、厚生年金保険の種別は第1号厚生年金被保険者になります(実施機関は日本年金機構)。
一方、民間の事業所に勤務して、社会保険が適用される場合には、厚生年金保険の種別は、もちろん、第1号厚生年金被保険者になります。

それでは、厚生年金保険の保険料は、どのように算出するのでしょうか?

市役所の月額賃金(報酬月額)10万円と民間事業所(地元のスーパー)の月額賃金(報酬月額)9万5千円を合算(19万5千円となる)し、ここから標準報酬月額を求めます(標準報酬月額は200,000円と算定される)。
この標準報酬月額に当てはまる厚生年金保険料を、2つの事業所の月額賃金(報酬月額)で按分し、事業所ごとの保険料を算出します。
詳細については、【図表2】に記しましたので、お読み取りください。

【図表2】2つ以上の事業所に勤務する短時間労働者の
厚生年金保険の標準報酬月額の求め方
-厚生年金保険料は2つの事業所で按分-
<【図表1】のデータを踏まえたもの>

◆厚生年金保険の標準報酬月額

市役所の月額賃金(報酬月額)10万円と
民間事業所(地元のスーパー)の月額賃金(報酬月額)
9万5千円を合算(19万5千円となる)し、この報酬月額
を標準報酬月額等級表の等級区分に当てはめ、標準報酬月額を求める。
標準報酬月額は200,000円

◆厚生年金保険の保険料の按分方法(各事業主ごとに算出)

標準報酬月額(200,000円)に基づく
厚生年金保険料(被保険者負担分:18,300円)を求める。

それを、下記の計算式のように、
各事業所ごとの月額賃金(報酬月額)で按分して、算出する。

・厚生年金保険料×市役所の報酬月額/[報酬月額の合計]

・厚生年金保険料×民間事業所の報酬月額/[報酬月額の合計]
で按分する。

市役所18,300円×10万円/19万5千円
=9,384.61円≒9,385円

◇民間事業所18,300円×9万5千円/19万5千円
=8,915.38円≒8,915円

なお、実務上は、日本年金機構から各事業主ごとに按分した【保険料額のお知らせ】が届き、それに基づいて各事業主が厚生年金保険料を控除することになる。

上記の計算式は、被保険者の視点に立って、按分後の保険料控除額を市役所・民間事業所の各事業主ごとに、わかりやすく記したもの。

パートタイムの会計年度任用職員(臨時職員・非常勤職員)は、
共済組合の組合員だが、第3号厚生年金被保険者にはならない!

社会保険が適用されるパートタイムの会計年度任用職員(臨時職員・非常勤職員)は、制度改正があり、令和4年10月以降は、共済組合の組合員となっています。
共済組合の組合員となったので、適用される医療保険(健康保険)は協会けんぽではなく、共済組合の短期給付(医療保険相当)が、適用になっています。
また、共済組合の組合員なので、福祉事業(特定健診など)も適用されています。
しかしながら、短期組合員ですので、長期給付(第3号厚生年金被保険者・新3階部分である退職等年金給付)は適用除外とされ、厚生年金保険は第1号厚生年金被保険者となり、公務員版企業年金といわれる退職等年金給付の加入対象にもなっていません。

パートタイムの会計年度任用職員の医療保険は、
共済組合の短期給付が適用

社会保険が適用されるパートタイムの会計年度任用職員は、令和4年10月以降は、共済組合の組合員となり、共済組合の短期給付(医療保険相当)が、適用になっています。
他方、2つの事業所に勤務し、【図表1】の<モデル事例>のように、もうひとつの事業所では、適用される医療保険(健康保険)が協会けんぽとなる場合、その取り扱いはどうなるのでしょうか?
健康保険証は共済組合の組合員証を使うのでしょうか、協会けんぽの被保険者証を使うのでしょうか?
また、健康保険料はどう徴収されるのでしょうか? 厚生年金保険料のように、2つの事業所に按分されるのでしょうか?

答えは、共済組合の短期給付(医療保険相当)が適用される、ということになります。
下の緑色の枠で囲った健康保険法第200条をご覧ください。

健康保険法(大正11年法律第70号)

(共済組合に関する特例)

第200条 国に使用される被保険者、地方公共団体の事務所に使用される被保険者又は法人に使用される被保険者であって共済組合の組合員であるものに対しては、この法律による保険給付は、行わない。

2 共済組合の給付の種類及び程度は、この法律の給付の種類及び程度以上であることを要する。

第202条 第200条第1項の規定により保険給付を受けない者に関しては、保険料を徴収しない。

健康保険法第200条第1項の規定により、医療保険(健康保険)は共済組合の短期給付が優先して適用されますので、市に任用された会計年度任用職員であれば、○○都道府県市町村職員共済組合(*)の短期給付が適用になります。

(*) 横浜市・大阪市など10の政令指定都市は単独の共済組合を設立しているので、そこで、短期給付が適用。また、都市職員共済組合(北海道都市職員共済組合など3つある)に加入する特定の市は、都市職員共済組合で、短期給付が適用される。

健康保険法の保険給付が行われないので、もちろん、保険料も徴収されない、ということになります(健康保険法第202条)。

参考までに、ある県の市町村職員共済組合の、<モデル事例>のような短期組合員の短期給付の掛金率(短期組合員本人が負担する保険料率)は、48/1000(令和6年度)ですので、標準報酬月額が98,000円の場合、掛金の金額は月額4,704円ということになります。
繰り返しになりますが、協会けんぽからの健康保険料は保険給付を受けないので、徴収されないということになっています。

余談になりますが、事業所が市役所でなく、民間事業所で協会けんぽに加入するということであれば、厚生年金保険のように、月額賃金から標準報酬月額を算定し、健康保険料を按分するということになります(なお、異なる都道府県の協会けんぽの場合、低い保険料率が適用されるので、低い保険料率の協会けんぽ支部を選択するのが一般的)。

2つ以上の事業所に勤務する人が提出する
「二以上事業所勤務・所属選択届」はちょっとややこしい!

2つ以上の事業所に勤務する人が提出する「二以上事業所勤務・所属選択届」はちょっとややこしいです。
正式には、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」といいますが、「二以上事業所勤務」を先に持ってきたほうがわかりやすい印象があるので、本稿ではこのように記します。小見出しもそのように記しています。

さて、市役所と民間事業所の2つの事業所で、社会保険が適用になった短時間勤務者(市役所)・短時間労働者(民間事業所)は、「健康保険・厚生年金保険 被保険者 二以上事業所勤務・所属選択届」を提出することになりますが、市役所の所在地を管轄する年金事務所(事務センター)に提出すればいいのでしょうか? それとも民間事業所の所在地を管轄する年金事務所(事務センター)に提出しなければならないのでしょうか?

<モデル事例>の場合、市役所で共済組合の短期給付(医療保険相当)を受けることになりますので、市役所を選択事業所とする、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(正式名称)を、市役所の所在地を管轄する年金事務所(事務センター)に提出することになります。

さらにややこしいのが、日本年金機構のホームページ(更新日:2024年4月1日)によれば、「健康保険に加入する事業所(筆者注:<モデル事例>でいうと、民間事業所)から資格取得届とあわせて、健康保険の保険料徴収および保険給付を行わないための『健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届』の提出も必要となります。」と注意書きが記されていますので、実務の手続きは煩雑です。

令和6年5月28日に開催された第6回「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」において、【資料2】【複数の事業所で勤務する者、フリーランス、ギグワーカーなど、多様な働き方を踏まえた被用者保険の在り方について】の『複数事業所で被用者保険の適用要件を満たす者の適用事務について』(スライド4からスライド7)の説明に対する質疑では、構成員(懇談会の委員のこと)から複雑との意見が漏れていました。

パートタイムの会計年度任用職員は、雇用保険に加入、
短期給付(雇用保険相当)はどうなる?

実は、社会保険が適用されるパートタイムの会計年度任用職員は、雇用保険にも加入しています。
そして、すでに申し上げましたように、社会保険が適用されるパートタイムの会計年度任用職員は、令和4年10月以降は、共済組合の組合員となっています。
共済組合の組合員には、短期給付が適用されますが、この短期給付の給付内容というのは、実は、医療保険相当と雇用保険相当を意味しています。

ということは、会計年度任用職員が、一定の要件を満たし、育児休業給付(育児休業手当金)や介護給付(介護手当金)の給付を受けるという場合には、雇用保険からの給付を受けるのか、それとも共済組合からの短期給付(雇用保険相当)を受けるのでしょうか?

地方公務員等共済組合法では、次のように規定されています。

地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)

(育児休業手当金)

第70条の2
<第1項から第3項まで略>

4 育児休業手当金は、同一の育児休業について雇用保険法の規定による育児休業給付の支給を受けることができるときは、支給しない。

(介護休業手当金)

第70条の3
<第1項から第3項まで略>

4 介護休業手当金は、同一の介護休業について雇用保険法の規定による介護休業給付の支給を受けることができるときは、支給しない。

つまり、雇用保険から育児休業給付または介護給付を受けることができる場合には、共済組合からは育児休業手当金または介護手当金は支給しない、ということになっています。

「懇談会」では、公務員共済組合の「短期給付(雇用保険相当)」と雇用保険の関係が議論されているわけではないので、ここでは、単に紹介にとどめておきます。

今年の夏には財政検証の結果が公表され、そのあとに、年金制度改正の議論が本格的に進んでいくものと認識しています。

タイムリーに情報を提供していきたいと考えています。
引き続きのアクセスをよろしくお願い申し上げます。

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本稿を執筆するにあたり、静岡県社会保険労務士会の丹治和人先生から多大なるご指導をいただきました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。