こくほ随想

総合診療医

「総合診療医ドクターG」のシリーズがNHKで再三放映されている。この番組は、研修医が総合診療医の指導の下に病名を探り当てるまでの謎解きをスタジオで展開するものだが、結構視聴率が高いようだ。

高齢者は、1人で数種類の病気に罹患するというのが普通である。そこで、1人の高齢者が、5つの病気に罹患している場合、大学病院などの外来を利用すると、5人の専門医にかかることになる。そして、5人の専門医からそれぞれ3種類の薬を処方されたとすると、5×3で15種類の薬を服用することになる。15種類の薬を飲んでも本当に大丈夫かは個々の専門医は判断してくれない。

診療所の外来利用でも似たようなことになる。これまで日本では、医師は専門医として育てられてきた。このため開業医の場合でも、専門医が開業するので、標榜科目によって自分の専門領域を表示することになる。患者は自分の素人判断で専門の標榜科目の診療所で受診し、専門外ならば、他の科の診療所を紹介されるという具合になってしまう。高血圧で循環器科に行っても、胃もたれは胃腸科へ、腰痛があれば整形外科へ、皮膚炎があれば皮膚科へ行くことになり、結構、あちこちの診療所へ行くことになる。

多くの国では、外来診療は家庭医や総合医が行い、幅広い診療科に対応している。患者は、一カ所の診療所へ行けばいい。そこで診療できなければ、専門医へ紹介される。大学病院の複数科のはしご受診など考えられない。

総合的な外来に合わせて、総合診療医に期待されるのは、在宅医療である。在宅医療では、自分の得意な専門科の診療だけをするというわけにはいかない。在宅では、専門医が入れ代わり立ち代わりやってくるなどということは非現実的であり、主治医による総合的な診療が求められる。また、一過性の医療ではなく、長期にわたるかかりつけの医療が必要になる。

現在、医療と介護を通じた一体改革で、地域医療構想と地域包括ケアが進められている。地域医療構想の病院改革において、病院機能の分化と強化を図り、平均在院日数を短縮すれば、入院患者は今までよりも早く地域に帰ってくる。その時、受け皿としては、介護サービスだけでは不十分で、特に退院初期に在宅医療は欠かせない。

人口ピラミッドの変化をみても、75歳以上の後期高齢者は、2010年には11%だが、2025年には18%、2060年には、27%になる。人口の4人に1人が75歳以上になるのに、老人病院や老人施設をつくってそこで収容するだけという社会モデルは成り立たない。地域に普遍的に在宅医療や在宅介護のサービスが埋め込まれ、要介護や認知症になってもできるだけ自立した生活を送ってもらうという地域包括ケアシステムを目指すことになる。

また、超高齢社会は多死社会でもある。これまでのようにほとんどの高齢者が病院で死ぬということは困難になる。施設や在宅での看取りにとって、在宅医療は不可欠になる。

在宅医療は、入院、外来とは異なる医療の第3分野である。超高齢社会では、これを全国にあまねく普及していく必要がある。かつて、国民皆保険導入時には、「保険あって医療なし」と言われて、国保直営診療所が僻地を中心に整備された。これと同じで、そのうち「保険あって在宅医療なし」と言われるようになるだろう。

総合診療医は、内科、外科、小児科、産婦人科などと並ぶ19番目の専門医として、平成29年度から養成が始められる予定だった。しかし、専門医を養成する制度全体の在り方が医師の地域偏在を助長しないかという批判もあり、30年度からの実施へ繰り延べにされた。

総合診療医の創設は、やや遅きに失した感もあるが、関係者の理解のもとに着実に進めていく必要がある。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

←前のページへ戻る Page Top▲