こくほ随想

国保と精神医療

医療保険の制度・保険者間の財政力の均衡をいかにして図るか。皆保険体制下で今日まで背負ってきた宿命であった。そして、税財源による調整に限界がみえてきた昭和50年代後半以降、保険者努力の及び難い構造的リスク要因としての年齢構成と所得水準に着目した調整が進められ、深化を遂げてきた。年齢構成と所得水準は、誰もが承認する構造的リスク要因であり、更なる調整の余地が残されているが、それ以外にも無視できないリスク要因が残されているように思う。その一つは、国保が精神や神経系の患者を多く抱えているということである。

国保の年齢階級別医療費は、若年層と65歳以上の高齢者では、被用者保険とほとんど変わらない。大きな違いは、現役世代の医療費では国保が高く、特に入院医療費が高いことである。厚労省保険局「平成27年度医療給付実態調査報告」の分析(要旨)は次のとおり。

「年齢階級別一人当たり医療費をみると、国保は他の三制度(協会けんぽ、組合健保、共済組合)に比べて、20歳台後半から60歳台前半の医療費が高くなっているが、入院外では大きな格差はみられない。国保が高いのは入院医療費が高いことによる。さらに入院医療費について、疾病分類別にみると、国保では「精神及び行動の障害」や「神経系の疾患」が多く、他制度との医療費の差はこうした疾病によるものとみられる。」

ちなみに国保では、20歳台後半から50歳台前半の入院医療費のうち、精神・神経系の疾病が4割を超え、40歳台前半では実に48.1%をしめる。一方、健康保険組合では、40歳台でも8%程度にとどまっている。

働き盛りのサラリーマンが心の病にかかり、休業を経て退職する。医療保険では、退職後国保に加入し、長期入院により医療費が嵩み、これが国保の財政を圧迫する。

この傾向に拍車をかけたのは、平成14年の健康保険法の改正により平成15年4月から施行された継続療養制度の廃止である。継続療養制度では、治療中であった疾病については健保の資格喪失後も初診日から5年間は引き続き健保から医療が受けられた。健保と国保の間で給付率に差があったことから設けられていたが、給付率が統一されたのを機に廃止されたものである。

平成30年度から全面施行される国保制度の改革では、消費税率の引き上げのほか、被用者保険の後期高齢者支援金の全額総報酬割への切替えにより生ずる国費を活用し、「精神」の医療費が嵩む市町村国保に対しては、特別調整交付金の重点的な配分を行うこととしており、大きな改善を図る。

精神疾患(躁うつ病等の気分障害、統合失調症、神経症性障害・ストレス関連障害、認知症、てんかんなど)の総患者数は392万人。医療計画が掲げる五大疾病のなかで最も多く、糖尿病、がん、脳血管疾患などを上回る(「第1回これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会資料」)。

国際的にみたわが国の医療の問題点として、病床数が多く在院日数が長いことや、地域差が大きいことが指摘されるが、これらは精神医療にもそのままあてはまる。傷病分類別にみた平均在院日数は、「精神及び行動の障害」が291.9日、これに続くのが「神経系の疾患」で82.2日である(「平成26年患者調査」)。また、精神病院の人口10万対病床数は、最高の鹿児島県と最低の神奈川県の間で、3.9倍という大きな開きがある(「平成28年医療施設調査」)。

今後の課題としては、精神医療の見直しを急ぐとともに、地域医療構想や平成30年度からの都道府県医療計画を通した病床の適正配置を進めるほか、年齢構成、所得水準に並ぶ構造的な格差要因として疾病構造を位置付け、公費負担の配分にとどまらず、被用者保険との費用負担の調整をも射程に入れた検討も必要になるのではないか。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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