顕彰制度の審査で見えたこと

■表彰される自治体の共通点

近年、好事例を取り上げて横展開を進めたり、施策・研究のマネジメントを強化する目的で、第三者による審査が導入されるケースが増えている。私自身も、自治体や企業、保険者による予防・健康の取組や大学の公募研究などの審査委員を複数務めている。審査の難しさを常に感じる一方で、素晴らしい取組や画期的な技術に出会う感動のある仕事だと思っている。

その中でも長く関わっているのが、2012年にスタートし、今年第9回を迎えた厚生労働省の「健康寿命を延ばそう! アワード」だ。このアワードでは、自治体や企業、団体による優れた生活習慣病予防活動の表彰を通じて、活動の普及を図ることを目的としている。

審査では、健康課題の設定、やり方の工夫、取組の結果などを確認していく。そういった作業を通じて候補を選定する中で、候補に選ばれる取組には共通する要素があることに気づいた。従来、自治体の取組によくあるように、実施すること自体を目的としているのではなく、明確な問題意識を持ち、「地域のそんな課題を解決するためにこんな取組をしてみた」という分かりやすいストーリーを提示できている点だ。

■一歩を踏み出す勇気

さらに気づいたのは、そういった自治体には最初の一歩を踏み出す勇気のある職員がいることだ。審査の年数を重ねていくと、受賞をされた自治体などの方々にお会いする機会が増えていくのだが、実際にお会いした現場の皆さんからは、日常業務を進める中で自分たちの取組をもっと良くしたい、上司や財政課、地域の人たちに理解してもらい、もう一歩取組を進めたいという気持ちで申請した、といった声をよくうかがう。彼らの多くは「カリスマ保健師」などではない。

ただ、申請書を書くにも様々な準備が必要で、日常業務をこなしながら申請の手続きを進めるのは簡単ではないはずだ。事業を計画する段階で評価指標を設定しておかないと、審査には耐えられないため、1年後、2年後に目指す具体的な像を関係者で共有することが重要になる。時には、自然災害や予期しない集団感染などが起こり、人手がとられてしまう。そんな時に不可欠なのは、それを後押ししてくれる先輩や上司の存在だ。

■日常から素晴らしい取組が取り上げられるには

素晴らしい取組が世の中のお手本になるためのもうひとつの必要条件は、取組の工夫を「明文化」することだ。私たちの研究ユニットは、制度設計や政策評価といった「上流」に位置する研究に携わっている一方で、自治体の皆さんと一緒に健康課題の解決メニューを創ったり、対象者のデータを取ったりする「泥臭い」研究も並行して進めている。新型コロナ禍までは、私をはじめメンバーそれぞれが、離島も含めて年間数十日は現場に足を運んできた。

そのような現場で私たちが感じるのは、種々の工夫がもっと整理されていれば、職員相互のノウハウ共有や、異動の際の引継ぎに便利だし、それが顕彰制度への申請にも活用できるはずということだ。私たちが各自治体にうかがう際には、事前に事業計画書や関連資料を拝見しておくのだが、現場で運営されている創意工夫がそこに記載されていることは少ない。なお、現場の暗黙知を明文化していくには、データに基づいて健康課題やその解決度を測る評価指標が設定されている「データヘルス計画」をプラットホームとして活用することも有用である。

顕彰制度への応募は、現場での知見を整理し、明文化する良い機会になるかもしれない。そして、自治体における素晴らしい取組が埋もれることなく、世の中に周知されれば一石二鳥だ。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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