リスク構造調整への収斂

新国保制度の財政運営にあたっては、都道府県が医療費の見込みを立て、市町村ごとの年齢構成調整後の医療費水準と所得水準を反映させた納付金の額を決定する。年齢構成の違いによる医療費水準の高低や所得水準の違いによる財政力格差については、市町村努力の及び難い構造的リスク要因としてとらえ、都道府県レベルで調整を徹底する。

一方、市町村レベルの自主的な努力の余地がある実質的な医療費水準や保険料収納率の違いなどについては、保険料水準に反映させる。これが基本的考え方である。

当面、円滑な移行を進める上で、保険料負担の激変緩和措置が必要になるが、将来的に市町村標準保険料率の採用が一般化すれば、住民負担の見える化に加え、保険料負担の「平準化」が実現する。ただし、ここでいう平準化とは、構造的格差要因の解消と保険料算定方式の統一による格差縮小であって、必ずしも統一保険料ということにはならない。

新制度が目指すリスク構造調整の考え方は目新しいものではなく、先行して介護保険、後期高齢者医療制度、協会けんぽ(旧政管健保)で採用されていた。その意味では、この改正で医療・介護分野でリスク構造調整という考え方が定着したことになる。

介護保険でも保険料格差が話題になることがあるが、それが不当だとして問題になることはない。サービス水準を反映するものだという理解があるからであろう。市町村の高齢化率は全国的にプールされる第二号被保険者の保険料によって調整され、第一号被保険者の所得水準や年齢構成については調整交付金によって調整されている。都市部では介護報酬の人件費部分に地域加算がある分だけ保険料が高くなるが、これも賃金の実態を反映するものとして受け入れられている。

後期高齢者医療制度は都道府県単位の広域連合が保険者である。一人当たり保険料は、厚生年金の標準的年金の受給者についてみると、最高の福岡県と最低の新潟県の間で1.6倍の格差があるが、所得水準が調整された上で医療費水準が反映されたものである。

協会けんぽの保険料率はかつては全国一律であったが、地域の取組みによる医療費適正化努力が反映されないという問題が指摘されるようになり、平成21年9月から現行制度への切替えが行われた。新制度では、年齢構成や所得水準の違いによる医療費水準や財政力格差を全国レベルで調整した上で、医療費水準の地域差を反映した都道府県単位の保険料率を設定する。ただし、旧制度からの切替えにともなう激変を緩和するため、平成32年3月までの間、全国平均保険料率との乖離幅を調整する措置が講じられている(平成29年度は乖離幅を10分の5.8に調整)。

これまでの国保制度改革の論議では、しばしば統一保険料の採用を含む広域化が提唱されてきた。しかし、受療機会の格差や医療費適正化・保険料収納など市町村の努力の余地がある要因と構造的要因を峻別しないまま平準化を進めることは、新たな不公平を生むという懸念がある。

国保制度改革は、将来に向けての課題を残しつつも、常識的で穏当なところに落ち着いたように思う。


リスク構造調整の先行例としての協会けんぽの都道府県単位保険料率の設定のイメージ

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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