いよいよ予防も「標準化」が始まる

■「標準治療」から「標準予防」へ

7月に閣議決定された骨太方針2020では、新型コロナ禍を踏まえ、予防・健康を基盤として新たな日常を構築することが社会保障分野の重要課題に掲げられた。そして、その実現のために、保険者による「データヘルス計画」の標準化を推進するとされた。2016年の内閣府経済・財政一体改革推進委員会から一貫して、予防の標準化の重要性を訴えてきた私にとっても、大変感慨深い出来事だった。いよいよ「標準予防」を目指す取組が始まるのだ。

治療の分野では、「科学的根拠に基づいた観点で現在利用できる最良の治療」とされる「標準治療」がこの数十年で確立されてきた。一方で、予防の標準化はこれまで手つかずだった。その背景には、診療行為や投薬による効果が測定しやすい治療に比べて、予防は社会環境や生活習慣といった様々な要素に影響を受けるため、検証が難しかったという事情もある。

■「標準化」のメリットは

治療の分野では、標準化によって取組の質が向上するのは周知の事実だ。たとえば、がんと診断された場合、どこの病院のどの医師にかかっても、一般に「標準治療」とされている治療法を勧められ、一定の質の治療を受けることができる。「標準治療」というと万人に同じ治療をするように思われがちだが、患者の年齢や検査値、病気の進行度などに応じてふさわしい治療が、どの医療機関でも同じように受けられるのだ。同様に、予防の標準化が進むと、どこの市町村に住んでいてもその人の年齢や健診結果、生活習慣などに応じて、同じ質の予防が受けられるようになる。

また、「標準治療」によって手術時間が短縮され、医師と患者双方の負担が軽減されるように、予防の分野でも市町村の職員が実施方法をゼロから考える必要がなくなれば、現場の負担が軽減し、健康課題の解決に力を注げるようになる。結果として、予防を進めていきながら、現場で工夫が生まれる余地が増える。

■取組を進める二つの柱

予防を標準化する一つ目の柱は、各市町村の健康課題とそれを解決する保健事業の設計書である「データヘルス計画」を共通の様式で再整理することだ。手始めに今年の8月からさっそく複数の都県で、私たちの研究ユニットが開発した「標準化ツール」(こくほ随想・第3回参照)への計画の転記がスタートした。すると、「標準化ツール」を使ってみた市町村からは、「同じ様式で他市町村と比べることで、うちの市で不足している要素がわかりました」といった声が挙がった。また、「同様の健康課題を持つ〇〇市さんがどのようなやり方で保健事業を実施しているのかを詳しく聞きたい」という要望が相次いだ。

二つ目の柱は、共通の「評価指標」の導入である。特定保健指導の実施率やメタボリックシンドローム該当者の割合といった同じ評価指標で事業の実績を評価することにより、市町村相互の比較が可能になる。この二つの柱を組み合わせることで、成果が上がった事業が顕在化し、効果的な方法・体制の工夫を抽出しやすくなるというメリットがある。

ただ、現状では、「データヘルス計画」に十分な情報が記載されていない場合も少なくない。せっかく現場で様々な工夫がされていても、計画にはその記載がなく、現場の暗黙知にとどまってしまっているのだ。また、評価指標について、特にアウトカム指標は未設定であることが多いなど、まだ課題はあり、予防の標準化は始まったばかりだ。

それでも、市町村の皆さんが共通の「評価指標」の設定や「データヘルス計画」の中身を共通様式に整理することの良さを感じている様子を拝見して嬉しく思った。同時に、この取組を進めていくことで、遠くない将来に「標準予防」が実現することを確信した。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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