こくほ随想

第4回 
ロジカルシンキングのすすめ

ご存じの通り、今年度は、第3期データヘルス計画と第4期特定健康診査等実施計画の策定の年です。これらの計画策定は、国民健康保険の担当者にとってはとても大変で、そして大事な仕事です。

データヘルス計画の研修会等で計画策定の話をする機会がありますが、その時に感じるのは、“ロジカルシンキング”、日本語でいうと“論理的思考”の重要性です。計画策定においては、健康課題は何か、それらを解決するためには何が必要か、どのように解決策を実行し、どのように評価して、見直しをするかを論理的に考え、そして、それを計画書として形にしていかないといけません。

ロジカルシンキングにはいろいろな考え方や方法があります。代表的なものに“ロジックツリー”があります。ロジックツリーとは、問題をツリー状に分解し、ロジカルに原因や問題解決策を導き出す方法(フレームワーク)です。

例として、「生活習慣病の減少」を考えます。「生活習慣病の減少」のためには、「メタボリックシンドロームの減少」「糖尿病等の重症化予防」「健康づくりの推進」という下位の目的が挙げられます。次に、「メタボリックシンドロームの減少」のためには、「特定健康診査の推進」「特定保健指導の推進」が、さらに下位の目的として挙げられます。そして、具体的には、特定健康診査のさまざまな受診勧奨、特定保健指導の利用勧奨や効果的な指導の実施などの個別事業が挙げられます。これ以外の事業でも、データヘルス計画は、ロジカルシンキングの応用そのものなのです。

従来、保険者は業務上、ルーチンな仕事が多いためか、ロジカルシンキングが得意な人はそれほど多くありません。事務職の方もそうですが、それ以上に、医療や保健の専門職もロジカルシンキングを学ぶ機会はほとんどありません。

私の所属する帝京大学大学院公衆衛生学研究科は、大学院として公衆衛生の専門職の育成を目的にしています。その中の教育目標の一つとして、ロジカルシンキング(あるいはシステムシンキング)の習得があります。

これを目標に掲げたのには、初代の研究科長の矢野栄二先生の意向がありました。帝京大学に入職して、矢野先生の講義(主に疫学)を何度か聞きました。その中に、ロジックツリーとか、MECEなどの話がありました。MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字を取ったもので、「漏れなく、ダブりなく」という意味です。物事を考えるとき、正確な答えを導き出すために必要な要素を網羅し、かつ、それらが重複しないようにすることが大切だというものです。公衆衛生、しかも疫学でそんな話をなぜするのかなと思っていたのですが、徐々に、その重要性がよくわかるようになりました。今では、公衆衛生の教育機関のほとんどが、ロジカルシンキング(またはシステムシンキング)の習得を教育目標に掲げています。

私自身は、そうしたことに影響を受け、また、教授や研究科長という管理職になり、組織管理の観点から、少しは(いわゆる)ビジネス書を読むようになりました。毎朝、乗り換えの駅の構内で書店の前を通る時に、店頭に並んだ本をよくながめています。たくさんのビジネス書がありますが、その中にロジカルシンキングに関連する本も多くあります。そういうのを見ると、つい本を手に取って購入してしまいます。買っただけで安心して、読まずに積み上げている本も多くありますが。(苦笑)

ということで、皆さんも是非、ロジカルシンキングを学んでみてください。書店にも関連する本がたくさんあります。あるいは、ネットで検索するとたくさんでてきます。おそらく、目からうろこで、計画の策定や今後の事業の実施にあたり、大きな助けになると思います。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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