こくほ随想

日本の医療費を考える

長らく「わが国の医療費は国際的には低く、その低い医療費でパフォーマンスの高い医療が行われている」と言われてきた。確かに、OECDの医療統計(Health Statistics)を見ると、日本の医療費の対GDP比は2000年では7.3%であり、OECD諸国の平均である7.8%を下回っていた。同じく05年では、日本8.0%に対しOECD諸国の平均は8.7%であり、「わが国の医療費は低い」という状況が続いてきた。

しかし、09年の日本の医療費はOECDの平均に近づき(日本9.4%、OECD平均9.6%)、10年には、OECD平均を上回ったのである(日本9.5%、OECD平均9.4%)。最新のOECD Health Statistics2014では、日本の医療費は11年までしか出ていないが、対GDP比は10.0%でOECD平均9.2%を大きく超えている。12年のOECD平均は9.3%にとどまっており、わが国の医療費の対GDP比は12年も上昇しているので、両者の差はさらに広がる。日本の高齢化率の高さを考えれば、日本の医療費が「高い」とも言えないのであるが、これまでのように単純に「低い」とは言えないのである。

日本の12年度の国民医療費(OECD統計の医療費に比べて範囲が狭い)は、39兆2117億円(対GDP比は8.30%)である。これは前年度38兆5850億円(対GDP比8.15%)に対し6267億円の増で、伸び率1.6%となっている。13年度については、メディアスの統計(医療保険医療費+生保の医療費で国民医療費よりやや狭い)があり、13年度の医療費の伸び率は2.2%となっている。

従来、制度改正や診療報酬などの改定がない年は、3~3.5%程度の伸びを示してきた(09、10、11年度の国民医療費の伸び率は、それぞれ3.4%、3.9%、3.1%)が、12年度、13年度の医療費の伸びは、明らかに低下している。

医療費=「1日当たりの医療費」×「受診延べ日数」であるので、両者の動きをメディアスでみると「1日当たりの医療費」は従来と変わらず、一定の伸びを示している。しかし、「受診延べ日数」は、12年に0.9%低下し、13年度には0.8%低下している。そして入院、入院外において「受診延べ日数」が減ってきている。入院は入院期間の短縮があり、入院外は患者数が減少しているのだろう。

メディアスでは、様々な角度から医療費を捉えられる。13年度の医療費を「制度別」にみると、被用者保険28.8%、国民健康保険29.9%、後期高齢者医療36.1%、公費5.1%となっている。後期高齢者医療のシェアが前年度の35.6%から0.5ポイント拡大している。「種類別の医療費」では、医科の入院40.2%、入院外34.7%、歯科6.9%、調剤17.9%となっている。調剤のシェアが0.6ポイント増えている。

「医療機関種類別の医療費」では医科の病院53.4%、診療所21.5%、歯科6.9%、保険薬局17.9%となっている。保険薬局が診療所との差を3.6%まで詰めてきている。筆者が1980年代半ばに厚生省保険局医療課で診療報酬改定を担当していた当時は、歯科の医療費が10%程度、調剤が2~3%程度であったので、様変わりに驚かされる。

入院と入院外の観点からみると、入院が40.2%、入院外+調剤が52.6%であり、入院外が全医療費の過半を占めている。入院外の6割が診療所、4割が病院であり、その結果、病院が全医療費の過半を占めており、診療所は2割を若干上回る状況となるのだ。

病院数は約8600であるが、中小病院が多数(200床未満の病院が69%)である。しかし、入院医療費は、200床未満の病院が29%、200床以上の病院が71%であり、大病院のシェアが大きい。1施設当たりの年間の医療費は、大学病院162億円、公的病院49億円、法人病院16億円、個人病院7億円、医科診療所1億円、歯科診療所0.39億円、保険薬局1.3億円となっている。。

25年までを目標とする医療提供体制の改革は、以上の現状から出発し、地域にふさわしい医療提供体制を構築しなければならない。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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