こくほ随想
第12回
社会保障国民会議再び
早いもので連載から1年、最終回となった。この1年間で政治情勢は激変したが、政治情勢の変化に伴い、社会保障に対する政府のスタンスも変わってきていると思う。
昨年の施政方針演説では、社会保障について、「社会保険料は安心のための拠出であり、すべて必要な給付として再分配されます」とした上で、改革を着実に進める旨が述べられている。他方、今年の施政方針演説においては、「人口減少・少子高齢化においては、社会保障制度における給付と負担の在り方や所得再分配機能について、国民的議論が必要」としており、社会保障制度の所得再分配機能そのものを議論の対象としているように見える。過去に遡ると、2024年6月に改正された子ども・子育て支援法においては、子ども・子育て支援金を導入後も社会保障負担率(社会保険料負担/国民所得)が上昇しないようにする旨が規定されており、実質的に社会保険料率の引上げに歯止めがかけられた。その後、2025年10月の自由民主党・日本維新の会連立政権合意書においては、「社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料上昇を止め、引き下げていくことを目指す」とされている。今年の施政方針演説は、こうした社会保険料の抑制を目指す流れを反映したものと考えられる。
このような中で、税・社会保険料負担や物価高に苦しむ中・低所得の方々の負担を減らすための給付付き税額控除の制度設計を含めた社会保障と税の一体改革について、超党派で検討を進めるため、去る2月26日に第1回の社会保障国民会議が開催されたが、現段階では、改革の目指す方向が明確になっていない。
社会保障は、消費の担い手である「中間層」を厚くし、「成長と分配の好循環」の実現にも寄与するという意義や機能を有している。社会保険料の引下げは、現役世代の負担軽減にはなるが、相対的に高所得者ほど恩恵が大きく、逆進的である。中・低所得者の負担軽減のための給付付き税額控除の導入は、消費税の逆進性対策と考えられるが、他方で、社会保険料の引下げを行う場合、逆進性対策の効果を減少させるのではないか。次に、給付付き税額控除の具体的な在り方であるが、内閣官房の資料によれば、諸外国においては、税制を活用した給付措置が実施されている。例えばアメリカにおいては、勤労を前提に所得に応じた給付を行う「勤労所得税額控除」を導入している。また、カナダでは、GST(付加価値税)の導入と同時に、その負担軽減と生活保護を補完する観点から、GSTクレジット(現在、食料品・必需品給付)を導入したとされている。日本でこのような制度を創設した場合、制度創設のメリットとしては、マイナンバーをキーとして、金融所得を含めた所得捕捉及び税額控除と給付を一体的に行う基盤整備ができれば、公平・柔軟かつプッシュ型で給付(控除)を行うことができる。医療保険においても、保険料算定や高額療養費等の判定の共通基盤として活用できる。しかし、大きな課題として、年金・医療・介護など既存の社会保障や税制の控除との関係整理(給付調整等の可否)や安定財源の確保(仮に人口一人当たり年間約1万円~5万円の給付又は控除とすると約1兆円~6兆円)がある。社会保障の給付と負担に加え、税負担も変化することとなるが、改革後の社会保障と税全体の給付と負担、特に中・低所得者の給付と負担がどのように変化するのか明確にする必要がある。
今回の社会保障国民会議は、現時点においては、限られたテーマを議論することとなっているが、議論を整理していくと、第二次安倍政権のときに設置された社会保障制度改革国民会議のように、社会保障の意義や機能、所得再分配の在り方、社会保障の財源の在り方など社会保障の全体像について議論する必要があるのではないか。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉