こくほ随想

第11回 
施政方針演説

通常国会が開会した。憲法第41条では、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定している。国会は、毎年1月に召集される通常国会(会期は150日)、臨時国会(秋に開催されることが多い。会期は国会で決める)、特別国会(衆議院の解散による総選挙の後に招集される)と、三つの類型がある。

通常国会の冒頭に政府の4演説が行われる。総理大臣の施政方針演説、財務大臣の財政演説、外務大臣の外交演説、経済財政政策担当大臣の経済演説である。臨時国会では総理大臣の所信表明演説を行うのが通例であり、特別国会では演説がないこともある。

私は、中曽根内閣・竹下内閣の時に3年間、橋本内閣・小渕内閣・森内閣の時に3年間、総理官邸で勤務したので、総理大臣の演説作成作業に関わったことがある。その国会に懸かる重要政策・重要法案・予算については、関係各省の意見を踏まえながら、事務的にとりまとめていく部分もある。時の総理・内閣の政治姿勢・基本姿勢については、肝心なところは総理から文案が示される。

「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根総理は、外交姿勢も凜々しく、国内では行財政改革を掲げて、国鉄の分割・民営化に向けて関係法案の提出を宣言している。結びの部分は、中曽根総理から「山川草木悉皆成仏」という言葉を織り込んだメモが届き、それで締めくくられている。

小渕総理は、膝詰めで何度も議論して、施政方針演説を推敲していった。あるとき、小渕総理から「これでいこう」とメモが示された。「今必要なのは、確固たる意思を持った建設的な楽観主義。コップ半分の水を、もう半分しか残っていないと嘆くのではなく、まだ半分残っているじゃないかと考える意識の転換」。総理の熱い思いは、総理自らが自分の言葉で示される。

1月24日、石破総理の施政方針演説が行われた。翌日の新聞を読みながら目を引かれたのは、その構成である。前文と結語の間に、進めていこうとする施策が述べられているが、その第一が地方創生で、かなりの文量を当てて、具体的な政策の方向を示している。私も、これからの日本の活性化は地方創生に懸かっていると思うので、与野党の協力を得て、力強く進めて欲しいと思っている。

前文では、堺屋太一氏の著書『三度目の日本』(祥伝社新書)を引いて、堺屋氏は、これからは「楽しい日本」を目指すべきだと述べていると引用しつつ、石破総理の目指す「楽しい日本」像を語っている。

堺屋氏は、小渕内閣時代に経済企画庁長官をされていたので、直接お話を伺ったこともある。第一次ベビーブーム期(昭和22年〜24年)の人たちを『団塊の世代』と名付けたり、石油ショックの時に『油断』という本を書いたり、経企庁長官時代に市井(しせい)の方々の景気感覚を調査したり、「景気回復の胎動が聞こえる」と言ったり、時代を引っ張っていく、豊かな感覚を持たれていた方である。

早速その本を読んでみた。200ページ弱の新書版で、大胆に時代の流れを括っている。江戸末期が第一の敗戦、太平洋戦争に敗れた第二の敗戦、そして現在が第三の敗戦と言うべき状態にあると言う。敗戦とは、それまでの美意識・倫理観が否定されることを言う。第一の敗戦後は「強い日本」を目指し、第二の敗戦後は「豊かな日本」を目指した。第三の敗戦後は「楽しい日本」にしようと提言している。納得できる点や違和感を覚える点もあるが、現状を打破するために大胆な転換が必要だとする問題意識はその通りだと思う。

石破総理は、石橋湛山元首相の言葉を引き、真摯な政策協議によってより良い成案を得ると締めくくっている。与野党間の建設的な政策協議を経て、より良い政策の実行、英知を集めた「楽しい日本」の実現を期待したい。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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