こくほ随想
第11回
高齢者医療制度改革
去る1月23日に、衆議院が解散となった。通常国会冒頭の解散は、1966年以来60年ぶりとのこと。選挙における争点の一つが社会保障の在り方である。高齢者の負担の在り方も争点の一つであり、年末の医療保険部会における議論の整理においては、令和8年度中の具体的制度設計を念頭に、引き続き、議論することとされた。高齢者医療制度の在り方については、主として、高齢者自身の患者負担の在り方と老人医療費の支え合いの在り方の二つの課題があるが、今回は後者の改革の経緯について、取り上げることとしたい。
最初の改革は、市町村が老人医療費の給付主体となり、その費用を公費と各保険者からの拠出金で賄う老人保健制度の創設であった。その後、拠出金負担が重いとして主に被用者保険者からの不満が高まり、1997年の健康保険法等改正を契機に、抜本改革の必要性が指摘され、2006年の高齢者医療制度改革につながった。
当時、私は、高齢者医療制度改革の担当室長だったが、独立型の高齢者医療制度の創設を中心とした改革の基本方針は閣議決定されていたものの、保険者は決まっていなかった。市町村を保険者として、高額な医療費に係る都道府県の再保険事業を実施するという厚生労働省試案を公表したが、市町村が赤字の国保を抱える中で、地方自治体との協議は難航し、平行線のまま時間が過ぎていった。しかし、官邸からの改革に向けた強い指示もあり、地方自治体側の態度が緩やかになり、最終的には、全市町村が加入する広域連合を全都道府県に設置し、後期高齢者医療制度の運営を担うという、現在の形で決着を見た。関係者との調整の最終局面においては、全医療費について、都道府県が共同事業を実施するとともに、都道府県が市町村に標準保険料を示すという現行の国保制度に近い案も浮上していたが日の目は見なかった。その後、国保においては、国保連を事業主体として、都道府県単位で全医療費を対象とする共同事業を実施する制度を経て、都道府県と市町村が共同保険者となる制度に到達することとなった。当初、知事会は、医療保険制度、特に国保や高齢者医療制度に関わることに慎重だったが、その後、道州制の議論の盛り上がりなどを背景に、都道府県が医療保険において役割を果たすことに前向きな姿勢になり、制度上も徐々に都道府県の役割が強化されていったことが、国保制度の抜本改革につながったと思う。
このように、高齢者医療制度・国保制度とも改革がなされてきたが、後期高齢者医療制度の運営主体については、全世代型社会保障の構築に向けた改革工程において、引き続き、検討課題とされている。この点については、従来から広域連合のガバナンスの問題なども指摘されている。前述したような、これまでの改革の経緯を振り返ると、高齢者医療制度を国保制度と同様の枠組み(すなわち都道府県と市町村の共同保険者)とすることは、検討に値する。ただし、改革には、メリットとデメリットがある。メリットとしては、住民に認知度が低く、人事面でも盤石でない広域連合よりも、基礎自治体である市町村が保険料の決定や保健事業等を行い、都道府県が関与することにより、ガバナンスを強化することができることである。また、高齢者に対するサービスの提供を考えると、介護保険との連携もしやすくなると思う。他方、デメリットとしては、財政運営や保険料決定における政治的影響の懸念、既に達成している都道府県統一保険料への影響等がある。
後期高齢者医療制度の運営主体の在り方については、保険者の最も基本的な機能である適切な保険料の決定・徴収のほか、高齢者に対する質の高いサービスの提供といった観点も重視しつつ、デメリットや現時点においては制度が定着していることも踏まえ、改革の必要性を冷静に分析・検討する必要がある。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉