こくほ随想

第10回 
少子化対策

あけましておめでとうございます。今年も、皆様にとって素晴らしい年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。今年の干支は「丙午」です。60年前(1966年)の丙午では、迷信が原因で合計特殊出生率(以下、出生率)が大幅に低下しました。迷信が語られることはなくなりましたが、出生率は、前回の丙午をはるかに下回る水準で推移しており、今年から、新たに子ども・子育て支援金の徴収もはじまります。そこで、今回は、個人的経験も踏まえ、少子化対策の経緯について紹介します。

国として、少子化問題がはじめて政策課題として意識されたのは、いわゆる1.57ショックです。1989年当時、私は、厚生白書(現在の厚生労働白書)担当の係長でした。厚生白書は、毎年、テーマを決めて執筆します。1989年は、消費税(3%)の導入を背景に、「高齢者保健福祉推進10か年戦略」が策定されるなど介護対策が大きく前進した年でした。このため、当初は、介護問題をテーマとする予定でしたが、ある幹部から待ったがかかりました。1989年の出生率が丙午の年1.58を下回り、過去最低となりそうなので、少子化問題をテーマとすべきというのです。テーマを巡って、省内で大きな議論となりました。家族介護が限界で介護の社会化が急務であるのに対し、子どもを産むかどうかは個人の選択の問題であり、国がコミットすべきではない、いやいや少子化問題は、国の形を左右する大問題であるし、子どもを産むかどうかは個人の選択の問題であるとしても、子どもを産み育てやすい環境整備は国の責務であるなど。結局、2つとも取り上げましたが、少子化問題とその対策の議論は、この頃にはじまっていました。

当時の厚生白書における分析のポイントは、①出生数減少は晩婚化が主な原因であり、結婚している夫婦の子ども数は2人超と大きな変化はない、②人口推計は、晩婚化の進行が止まり、皆が結婚する「皆婚慣行」が継続し、出生率が回復すると仮定しているが、仮に出生率が下がり続ければ社会に大きな影響を与える、③対策として、女性の就労と出産・子育ての両立支援や、企業活動と従業員の家庭生活との両立、両親が共同して子育てできる環境づくりや地域の役割、子育ての経済的支援等が重要、といったものでした。その後、就職氷河期世代の低収入等もあり、未婚化が急激に進行するとともに、晩婚化による出産年齢の上昇等により夫婦の子どもの数も減少傾向となり、少子化に歯止めがかかっていません。

この間、少子化の原因の分析や対策の基本的考え方は、あまり変わっていないと思いますが、少子化に対する社会の受け止め方や制度は大きく変わりました。少子化は深刻な社会問題であるとの認識の下、社会保障と税の一体改革により、消費税の使途として、少子化対策に0.7兆円が認められ、その後、消費税の使途変更等により、2兆円が追加財源として確保されました。

社会全体の所得水準が向上し乳幼児死亡率が低下すると出生率が下がるのは諸外国共通の現象で、我が国が世界一進んでいる高齢化問題とは異なり、少子化問題には家族政策に積極的に取り組んでいる諸外国のモデルがあります。フランスの一般社会拠出金(CSG)も参考になったものと思いますが、消費税の引上げが難しい中で、新たな財源として、子ども・子育て支援金が制度化されました。

少子化対策は、結婚・出産・子育てにいかに価値を置くかという個人の価値観に関わるとともに、仕事と子育ての両立のためには長時間労働の是正が必要となるなど社会全体の構造・意識に関わる難しい課題です。少子化対策を進めるためには、制度改正や財源確保を行うだけでなく、社会の構成員一人一人が子どもと子育てに寛容な社会を目指すという意識改革が前提になるものと思います。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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