こくほ随想

第9回 
2024年を振り返る

年末恒例の「今年の10大ニュース」はまだ発表されていないけれど、私なりに重大ニュースを振り返ってみたい。

第一に挙げたいのは、1月1日に起こった能登半島での大地震である。地震と津波、さらには大火災もあり、被害は甚大であった。その後、9月には豪雨による被害も重なり、関係者の懸命な取り組みは行われているものの、なお課題山積の状況にある。

私が内閣府事務次官の時、2004年10月に新潟県中越地震が起こった。能登半島地震と同様に、最大震度7を記録し、内閣府の防災部局を中心に災害対応に当たった。内閣府は各省庁からの出向者を中心に組織されているため、防災担当統括官の下にいる担当者約50名は、関係省庁からの出向者で、必ずしも防災対応の経験を持っているわけではない。私がその50人に「阪神淡路大震災の時に防災関係の仕事を担当した人がいるか」と聞いたら、経験者は私と防災担当統括官(局長級)の2人だけだった。内閣府内の経済財政担当部局や男女共同参画局等からも応援を出してもらって対応した。担当した人たちはそれぞれ頑張ってくれた。特に男女共同参画局から現地に派遣された女性職員は、女性の被災者から頼りにされたとのことである。

そのとき私は、災害・防災について知識・技量を持った専任の職員が常駐する組織として、防災庁の必要性を痛感した。そのような意見も言ったが、組織再編は簡単には行われない。2024年10月に内閣総理大臣に指名された石破茂氏は、専任の大臣を置く防災省の設置を主張している。地方自治体には防災・復興を担当する専任の職員は少ない。ぜひ国で重厚で機動的な組織を創設していただきたいと強く思う次第である。

アメリカの大統領選挙でトランプ氏が勝利したことも、大きなニュースである。トランプ氏の主張をしっかり把握しているわけではないが、世界の要・リーダーとして従来から果たしてきたアメリカの役割より、アメリカ国・アメリカ国民にとっての利益を大事にする主張が、アメリカ国民に受け入れられたのではないかと受け止めている。ウクライナ・ロシア、イスラエル・パレスチナ等で戦争が繰り広げられている中で、平和的解決に向けてアメリカへの期待は大きい。地球温暖化対策、資源エネルギー問題、食糧問題、宇宙の平和利用など、アメリカの役割への期待も大きい。この先どうなるのか…。わが国のアメリカとの関係のあり方も難しいと思うが、政府レベルでも民間レベルでも十分な情報共有と協力が必要であり、そして両国の関係が建設的に維持されることを期待したい。

国内では、依然として少子化・高齢化への対応が大きな課題であり、そのためにはわが国の経済が力強く成長していくことが必要である。これまでも歴代内閣が挑戦し続けてきた課題であるが、残念ながら、経済面での失われた30年は、同時に少子化問題についても成果を挙げられなかった30年であった。私は、石破総理の掲げる「地方創生」が、わが国全体としてチャレンジしてみる価値のある政策ではないかと思っている。安倍内閣で地方創生が大きな政策として打ち出され、実際、地方の中には成果を挙げているところも少なくない。残念ながら安倍内閣の後半では他の政策の方に力が分散されてしまったが、ここはもう一度地方創生に力を入れていただきたい。多くの国民は、自分の住んでいる地域が住みやすくあって欲しいと思っている。知恵もアイデアも情熱もある。それをうまく発火させて欲しいと期待している。

来年はどういう年になるか、希望を持てる年になって欲しいと思う。少数与党は、野党の様々な意見に耳を傾け、国民にとってより良い政策を選択していくことが必要である。丁寧な政策協議と堅実な政策の実施が、良い年をつくり出す原動力になってくれることを期待している。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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