こくほ随想

第8回 
保険外併用療養と民間保険の活用

我が国においては、国民皆保険の理念の下、必要な医療は基本的に保険診療で行われるべきもの、保険適用となるのは、有効性・安全性が確認されたもの、とされている。このため、保険診療と保険外診療を併用して提供すること、いわゆる混合診療は、原則として禁止されているが、一定のルールの下、併用を認めている。これが保険外併用療養費制度であり、大きく分けて2種類ある。一つは、最先端の医療や適応外の医薬品などの先進的な医療について保険導入のための評価を行う評価療養と患者申出療養、もう一つは、いわゆる差額ベッド代など患者の自由な選択に係る費用である選定療養である。

近年、ゲノム医療、再生医療等の進歩で評価療養等の対象が拡大してきている。また、選定療養についても、従来は差額ベッドなど医療に関わらないアメニティーに関わるものが主であったが、近年は、紹介状なしで大病院を受診した場合や患者が自ら長期収載品を選択した場合の患者負担など、単なるアメニティーではなく医療政策上の必要性によるものも出てきている。

このような保険外併用療養の拡大に伴い、保険外診療の部分をカバーする民間保険のニーズも拡大してきている。このため、本年6月に改訂された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においては、「有効性評価が十分でない最先端医療等(再生医療等製品、がん遺伝子パネル検査等)について、――保険診療と保険外診療の併用を認める保険外併用療養費制度の対象範囲を拡大する。あわせて、――患者の負担軽減・円滑なアクセス確保の観点から、民間保険会社による多様な商品開発が一層促進されるよう、保険外診療部分を広くカバーし、公的保険を補完する民間保険の開発を推進していく。」とされている。

民間保険の開発・活用の推進に当たっては、いくつか課題がある。

まず、現状では、民間保険は、定額給付タイプ(入院日数×定額、入院時の一時金など)が主流であり、主契約となっている。他方、実際にかかった医療費(実損)を保障するタイプは、先進医療など限定的であり、主契約に付随する特約が一般的である。これは、入院のリスクは、一般的な統計から比較的容易に算出することが可能であり、給付額も定額の場合は算出しやすいのに対し、先進医療などについては、行政の判断によりその範囲や規模が変動すること、医療費の額も様々であることから、リスクの算出が容易ではないためである。今後、保険外併用療養が拡大していく場合に、現在の契約形態で対応可能なのか。民間保険の開発に当たり、行政からさらなる情報提供などの支援が必要ないか。

次に、公的保険は全員加入でありリスク選択はないが、民間保険は任意加入でありリスク選択(健康状態の告知や既往症は対象外とすること)がある。保険料も、公的保険は支払い能力に応じた負担であるが、民間保険は疾病リスクに応じた負担である。このため、例えば、疾病にかかりやすい高齢者等は、民間保険の場合には、加入できない可能性がある。保険料も逆進的であるが、こうした点をどのように考えるか。行政が何らかの形でコミットするのかどうか。

さらに、公的保険では、審査支払が審査支払機関(支払基金又は国保連)に一元化されているが、民間保険については、全国的な支払基盤はなく、各社ごとに審査支払を行っている。このため、例えば先進医療に係る医療費の支払いについても、各社が審査し、各医療機関との交渉・支払いを行っているが、審査支払件数の増加が見込まれる中で、いかに効率的な審査支払体制を構築していくのか。

行政サイドでは、保険外併用療養の見直しの議論が進んでいるが、公的保険を補完する民間保険の在り方についても別途検討が必要であり、行政と民間保険会社等との間の十分な対話が望まれる。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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