こくほ随想
第6回
普通調整交付金の見直し
保険者間では、加入者の年齢構成や所得水準に違いがあるが、これが、保険者間の財政力の格差の要因となっている。こうした保険者の責めによらない保険者間の格差については、その是正を図るための財政調整を行っている。
まず年齢構成の違いによる格差の調整の仕組みとしては、かつての老人保健制度、現在の前期高齢者の財政調整がある。仕組みは異なるが、いずれも国保に遍在する高齢者の医療費について被用者保険と国保との間で公平に負担する仕組みであり、高齢者に限った年齢調整である。具体的な調整方法としては、各保険者(前期高齢者の財政調整では都道府県)の高齢者一人当たり医療費に、各保険者の高齢者の加入率を全国平均の加入率に置き換えた場合の高齢者数を乗じて負担額を決定する仕組みが基本である。各保険者の医療費実績を基本とするため、各保険者が医療費を適正化した場合、適正化額に応じて負担額も減少することから、医療費適正化インセンティブを内在する仕組みと評価されている。また、国保制度内において、年齢調整及び所得調整を行う仕組みとして、国保事業費納付金がある。これは、市町村間の年齢構成の違いによる格差及び所得水準の違いによる格差を調整するものである。各市町村の年齢階級別の一人当たり医療費が全国平均であった場合の一人当たり医療費と当該市町村の一人当たり医療費との比率を基に、年齢調整後の医療費水準を算出している。すなわち、前期高齢者の財政調整同様、各保険者の医療費実績を基に、財政調整する仕組みである。
次に、国保制度内において、所得調整を行う仕組みが、かねてからその見直しが検討課題となっている国の普通調整交付金である。国保改革の際、各保険者(都道府県)の医療費実績と所得水準を基に、全国レベルで、都道府県間の所得調整を行うものとされた。これに対し、財政審においては、普通調整交付金について、都道府県の年齢構成を勘案して算出した標準的な医療費水準を前提として交付額を決定する仕組みに改めるべきとされている。
この財政審の見直し案は、二つの要素から成り立っている。一つ目は、年齢調整を行うことであるが、各保険者(都道府県)の年齢階級別の一人当たり医療費を基に年齢構成を全国平均に置き換える形で調整を行う場合には、これまでの仕組みの延長線上にある。二つ目は、標準的な医療費水準を前提に財政調整を行うことであるが、これは、保険者の医療費実績を基に調整するこれまでの仕組みと本質的に異なる。この見直し案の背景には、年齢構成の違い以外で生ずる医療費の地域差は全て保険者の責任であり、保険者が全額負担すべきという考え方がある。しかし、医療費の地域差には、地域における疾病構造など様々な要因が影響しているものであり、一概に全て保険者の責任とはいえないものと考える。また、これまでの財政調整の仕組みは、同じ医療費水準であれば同じ保険料水準となるよう調整するもので、医療費水準に比例して保険料水準が変動する仕組みである。他方、財政審の見直し案は、標準的な医療費水準より高い部分が全額保険料負担となるため、標準的な医療費水準を境に、保険料水準が大きく上昇する。このため、標準的な医療費水準が極めて重要な意味を持つが、「標準的」とは何か、定義は困難ではないか。仮に、全国平均の一人当たり医療費を標準的な医療費水準とした場合、なぜ全国平均を超えた額が全て保険者の責任となるのか。やはり、医療費の地域差が生ずる要因は何かという問題に戻ってしまう。
現行の普通調整交付金は、他の財政調整の仕組みとも整合性のとれた、医療費適正化インセンティブも内在する合理的な仕組みである。財政審の見直し案は、考え方、実務両面で課題があると考える。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉