こくほ随想

第5回 
特定健診・特定保健指導の効果

生活習慣病患者及び予備群を25%減少させる、医療費を2兆円削減するという目標を掲げ、2008年度に創設された特定健診・特定保健指導であるが、制度創設後15年以上経過して、制度が進化するとともに、各種エビデンスも蓄積しつつある。

まず制度の進化であるが、導入当初(2008年度)においては、それまでばらばらだった保健指導(介入)の標準化が図られ、介入の内容に応じたポイント制が導入された。第3期(2018年度~2023年度)においては、3%の減量で検査値の有意な改善が認められたとの研究や関係学会のガイドライン等を参考に、介入方法を問わず、腹囲と体重の減少等を評価するモデル実施が導入された。第4期(2024年度~2029年度)においては、このモデル実施をベースに、①腹囲と体重の減少(腹囲2㎝かつ体重2㎏減)や食生活の改善などの本人の行動変容を評価するアウトカム評価を導入する、②特定保健指導の成果等の見える化をすすめ、アウトカムの達成状況を把握し要因の検討等を行う、③ICT活用の推進を図る、こととされた。

次に、エビデンスについてであるが、特定健診・特定保健指導を含め、予防・健康づくりによる医療費の適正化効果については、見解が分かれている。2019年3月にまとめられた『「健康寿命の延伸の効果に係る研究班」議論の整理』においては、医療費への影響に関する既存の研究や見解には様々なものがあるとした上で、「現時点で、健康寿命延伸の医療費への影響について定量的な評価・推計を行うことは容易ではないと考えられる。まずは個々の取組の効果や社会的価値について丁寧に検証したり、健康寿命と個々の疾病との関連を丁寧にみる(そのうえで医療費との関連をみる)など、丁寧な検証を一つ一つ積み重ねていくことが必要であること、そのためには、今後さらに国内データに基づいた実証研究を蓄積していくことが必要であると考えられる」とされている。

その後、予防・健康づくりの健康増進効果等のエビデンスの確認・蓄積を目指して2019年度から大規模実証事業が実施されており、特定保健指導の参加者については、3年後の体重・HbA1cで有意な減少が見られた。また、特定健診受診者を分析した結果、「特定保健指導の対象とすること」や「特定保健指導を実施すること」により、医療費を抑制する可能性(一人当たり年間約▲6000円)が示唆されている。

このように、現時点においては、特定保健指導の健康増進効果のエビデンスは一部にとどまり、医療費適正化効果はエビデンスがあるとまではいえない。

しかし、新たな動きもある。ICTの活用については、AMED(日本医療研究開発機構)の2024年度のヘルスケア社会実装基盤整備事業により「2型糖尿病発症予防を目的としたデジタル技術によるヘルスケアサービスに関する指針」が策定されている。同指針においては、糖尿病発症予防を目的としたデジタル技術によるヘルスケアサービスは、体重減少に関するエビデンスが不十分であり、現段階では評価できないとする一方、個別サービスについては、例えばモバイルアプリケーションベースのデジタル技術によるヘルスケアサービスは、体重減少が期待され、行うことを提案する、とされている。現状においては、特定保健指導についても、様々なデジタル技術や製品が活用されており、玉石混交の状況にあるといえる。

今後、現場においてデジタル技術の活用を含め、様々な介入方法が実践されるとともに、その効果に関する研究が行われ、エビデンスの蓄積が進むことにより、介入→行動変容→腹囲及び体重減少→検査値改善→発症予防というメカニズムが解明され、特定保健指導の効果がより具体的かつ明確になることが期待される。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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