こくほ随想
第4回
目安対応
今年も、政府・与党内での厳しい調整を経て、去る6月13日に、骨太方針2025が閣議決定された。骨太方針においては、政府の財政運営の基本方針が示されるが、その中で最も重要なのは、社会保障関係費(社会保障に係る国庫負担)等の抑制目標を示す、いわゆる「目安対応」である。自公の政権復帰後、目安対応がはじめて明記されたのは、骨太方針2015である。同方針においては、「社会保障関係費の実質的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(1.5兆円程度)となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度(平成30年度)まで継続していくことを目安とし、……2020年度(平成32年度)に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引上げと併せて行う充実等に相当する水準におさめることを目指す。」とされている。これ以降、3年ごとに、骨太方針(2018、2021)において、同様の基本的考え方が記載されている。
年金については、目安対応上、改定による増加分は高齢化による増加分に含まれていることから、目安対応の中心となるのは、医療費の国庫負担額の抑制である。医療費の伸びを見ると、コロナ前は、年間2~3%の伸びで安定的に推移している。その要因を見ると、例えば2017年度は、医療費の伸びは2.2%、うち高齢化は1.2%、人口増▲0.2%、その他(医療の高度化等)1.2%となっており、高齢化など人口要因と高度化などその他要因が概ね半々となっている。目安対応の考え方は、高齢化による医療費の増加はやむを得ないが、医療の高度化等による増加は適正化努力により財源を捻出するという考え方であり、毎年、保険給付の見直しや薬価改定等により、対応してきた。しかし、近年はインフレ基調である。長年続いたデフレ下においては、公定価格の抑制が可能であったが、インフレ下においては、公定価格についても物価・賃金上昇への対応が必要である。
このため、骨太方針2024においては、「2025年度から2027年度までの3年間について……これまでの歳出改革努力を継続する。その具体的な内容については、……経済・物価動向等に配慮しながら、各年度の予算編成過程において検討する。」とされ、目安対応における経済・物価動向等への配慮が明記された。今回の骨太方針2025においては、骨太方針2024を基本としつつ、経済・物価動向等への配慮がより具体化され、「具体的には、高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する。」とされ、物価・賃金上昇に対応する公定価格引上げに相当する増加分を別枠として認めることが明確となった。
しかし、将来に向けた課題もある。一つは、財源である。骨太方針2025においては、「税収等を含めた財政の状況を踏まえ」とされており、別枠の財源として、税収の増加分の活用を想定しているが、来年以降もインフレが続く場合に、財源をどうするか。引き続き、インフレによる税収の増加分を活用することが可能なのか。もう一つは、目安対応の指標である。2022年度の医療費を見ると、医療費の伸びは4.0%、うち高齢化は0.9%、人口増▲0.4%、診療報酬改定▲0.94%、その他4.5%である。コロナ後の反動でその他要因が大きくなっていることはともかく、人口要因は減少し、指標としての必要性が薄れつつあるが、高齢化に代わる、あるいは高齢化に加える指標をどうするか。
次回、目安対応の基本的考え方を示す時期は、骨太方針2027である。高齢化のスピードが鈍化し、インフレが進行する中における、社会保障関係費の目安と財源の在り方について、考える必要がある。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉