こくほ随想

第3回 
外国人に対する医療費の適正な保障

少子高齢化と現役世代の減少が進む中で、深刻な人手不足に対応するためには、生産性の向上を図るとともに、高齢者・女性等が働きやすい環境づくり等により人材を確保していく必要がある。現状では、外国人材も、医療・介護等様々な分野で活躍しており、我が国の発展に不可欠な存在となっている。このため、外国人に対して、社会保障の適用等を進める一方、不正に対しては厳格な対応をとるなど、国民の理解のもとに、国民と外国人が共生していく社会づくりがますます重要となっている。

外国人に対する国保の適用については、過去3回大きな制度改正がある。

最初は、国籍要件の撤廃である。国保の適用要件として、かつては国籍要件があり、外国人は必ずしも適用対象ではなかったが、昭和61年に国籍要件が撤廃され、原則として、国籍にかかわらず日本に住所を有する者は国保の適用対象となった。

2回目は、住所要件の明確化と拡大である。平成16年の最高裁判決を受けて、適用除外となるのは在留期間が1年未満等と法令上明確化された。平成24年には、外国人登録制度の廃止に伴い、3か月を超える在留期間の外国人が住民基本台帳の対象とされることにより、国保の適用も、在留期間1年以上から3か月を超える外国人に拡大され、短期滞在外国人への医療費の保障が拡充された。

3回目は、国保の不正加入・不適正受給問題への対応である。平成30年及び31年には、外国人が高額療養費の支給申請等を行った場合であって在留資格の本来活動を行っていない可能性があると考えられる場合には、市町村が所管の地方入国管理局に通知し、当該地方入国管理局が必要に応じ在留資格を取り消し、市町村に通知する仕組みが創設・拡充された。さらに、その後、①保険料を一定程度滞納した者からの在留期間更新許可申請等を不許可とする、②出産育児一時金について、不正受給防止の観点から、書類の統一化及び審査の厳格化を図る、③医療機関が必要と判断する場合に本人確認書類を求められるようにする、といった対応が行われている。

国保の外国人被保険者数は、令和5年度時点で約90万人と全体の約4%を占めている。総医療費や高額療養費支給額に占める外国人の割合は、約1%強であり被保険者数に占める外国人の割合に比して大きくない一方、保険料の収納状況は、厚労省が行った約150自治体に対する調査結果では、外国人の収納率は63%と当該自治体の日本人を含めた全体の収納率93%と比較して低い状況となっている。

社会保障の立場から考えると、国籍により差別する理由はなく、内外無差別が大前提である。外国人であることを理由として給付制限が行われることがあってはならない一方、外国人であることに起因する不正受給を防止するとともに、保険料については、国民同様に納めていただく必要がある。出入国管理の立場から考えると、適法・適正な出入国管理が前提である。在留資格や活動について、適正な審査や実態の把握が必要である。さらに、社会保障と出入国管理の双方の適正な実施のためには、市町村と出入国在留管理庁など関係機関間の連携が重要である。

先般、与党において、国保加入時の保険料の前納方式の導入、市町村において外国人の保険料の滞納情報等を把握するためのシステム改修を行うなど、出入国在留管理庁が関係行政機関等から未納情報の提供を適時適切に受けられるような措置と、その情報の在留審査への有効活用、外国人被保険者の収納率等を含めた外国人の状況についての定期的な公表等が提言された。

現在、骨太方針の策定に向けた議論が行われているが、この提言を受けて、政府・与党において、積極的な議論が行われることが期待される。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

インデックスページへ