こくほ随想
第2回
医師偏在対策
今の通常国会に提出されている医療法等の改正案の柱の一つが医師偏在対策である。昨年春の厚生労働大臣のテレビ出演の際の発言もきっかけとなり、医師偏在が大きな課題として浮上した。
医師数は、1982年には、約16.8万人、人口10万人対141.5人だったが、2022年には34.3万人、人口10万人対274.7人と2倍弱まで増加している。
しかし、現状においては、大きな地域差がある。人口10万人対医師数をベースに地域ごとの医療ニーズや人口構成、医師の性年齢等の違いを踏まえて調整した医師偏在指標を都道府県別に比較すると、全国では255.6、最大の東京都353.9と最小の岩手県182.5では、2倍弱の差がある。また、2次医療圏別に比較すると、例えば、北海道では、最大の上川中部291.0と最小の北渡島桧山112.6では、2.6倍の差がある。
このような現状を踏まえ、実効性のある総合的な医師偏在対策を推進することとされた。その基本的考え方は、①医師偏在対策は一つの取組で是正が図られるものではなく、経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み(いわゆる規制的手法)、医師養成課程を通じた取組等を組み合わせた総合的な対策を実施すること、②従来の若手医師を対象とした医師養成課程中心の対策から、中堅・シニア世代を含む全ての世代の医師にアプローチすること、③医師偏在指標だけではなく、可住地面積あたりの医師数、アクセス等の地域の実情を踏まえ、支援が必要な地域(重点医師偏在対策支援区域)を明確にした上で、従来のへき地対策を超えた取組を実施すること、という3点である。
医師偏在対策には、経済的インセンティブといわゆる規制的手法のいずれにも、医療保険制度の役割が盛り込まれている。医師が少ない地域の経済的インセンティブについては、重点医師偏在対策支援区域で働く医師への手当増額の支援が盛り込まれているが、保険者から広く負担を求め、給付費の中で一体的に捉える。また、外来の医師が過多の区域におけるいわゆる規制的手法については、新規開業希望者に対して、開業6か月前に届出を求め、地域の外来の協議の場への参加、地域で不足している機能等の提供の要請を可能とする。要請に応じない場合には、勧告・公表や保険医療機関の指定期間を通常の6年から3年に短縮する等の措置を講じることを可能とする。
今回の医師偏在対策における医療保険制度の役割、特に保険財源の活用については、様々な意見があると思う。過去を振り返ると、国民健康保険の市町村設置義務化により、国民皆保険が達成された当時においては、「保険あってサービスなし」の地域を解消するため、市町村国保において、保険財源を活用して国保直診の医療機関の整備を進めた。また、国保制度の抜本改革により、都道府県単位の財政運営となり、現在、都道府県内の保険料の統一が進められているが、その前提条件の一つが、受益と負担が均衡するよう、都道府県内のどの地域でも、できる限り同じように医療サービスが提供されることである。さらに、これまでも、医療給付以外の措置等に保険財源を活用した事例には、医療費適正化に資するものとして活用が認められた医療療養病床の転換事業や、感染症の流行初期において診療報酬等の代替措置の役割を果たす流行初期医療確保措置がある。
こうした歴史、国保改革、過去の活用事例や今回の措置が本来診療報酬で賄うべきものの代替措置という性格を有することを踏まえると、今回の措置に係る保険財源の活用は、制度上の選択肢の一つと考える。ただし、保険者に対しては、その効果等を確認するための具体的枠組みの提示など、引き続き、理解と協力を求める丁寧な対応が必要だと思う。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉