こくほ随想
第1回
少数与党政権における予算編成
令和7年度予算が成立した。年末の政府の当初予算案は、社会保障関係については、いわゆる自然増6500億円に対し、社会保障関係費の伸びを実質的に高齢化による増加分に抑える、いわゆる目安対応のため、薬価改定、高額療養費の見直し等の制度改革・効率化等により、1300億円程度を抑制するという昨年までと同様のスキームの予算案だった。他方、今回の予算編成のプロセスを見ると、昨年10月の総選挙において与党が過半数割れした少数与党政権における予算編成であり、国会において、教育無償化や高額療養費等に関する予算の修正が行われるなど、極めて異例の予算編成となった。
何事もなく物事が進んでいるときは意識しないが、イレギュラーな事態が生じたときは、本来のルールが問われることとなる。そこで、今回の予算編成のプロセスを、憲法と国会法に基づき、検証してみる。
まず、予算編成については、憲法上、内閣の権限であることから、一義的には政府の責任において当初予算の作成が行われるが、国会において円滑な成立を期す観点から、通常、予算編成段階から与党との調整が行われる。今回の予算については、与党のみでは国会で成立させることが困難であることから、予算編成段階から、一部野党との協議も行われた。
次に、国会提出後に予算の修正が行われたが、予算の修正については、一定のルールがある。
まず、内閣が予算を修正する場合であるが、国会法第59条においては、内閣が各議院の議案を修正する場合には、その院の承諾を要するとされている。したがって、政府が当初予算を修正する場合には、衆議院の承諾を得た上で修正案を提出することが必要となる。
次に、国会が予算を修正する場合であるが、国会法第57条の2においては、国会における予算に係る修正の動議、同法第57条の3においては、国会による予算の増額修正に係る内閣に対する意見の聴取規定がおかれている。このような規定を踏まえると、国会修正により、予算の増額を含め予算の修正は可能であると考えられる。ただし、過去に、国会の増額修正に関して、予算提案権は憲法上内閣の専権事項であることから、提案権を害するような修正はできないとの政府の国会答弁がある。
今回の予算については、まず衆議院において、政府の当初予算を、増額ではなく減額する国会修正が行われたが、これは、こうした規定や見解も踏まえたものと考えられる。
また、国会法第83条においては、例えば参議院において議案を修正した場合、衆議院に回付し衆議院が同意の有無を議決すること、同法第85条においては、予算について、衆議院において参議院の回付案に同意しなかったときは、衆議院は、両院協議会を求めなければならないこととされている。また、憲法上、両院協議会を開いても意見が一致しないとき又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取った後30日以内に議決しないときは、衆議院の議決が国会の議決となる。
今回の予算については、参議院において予算額は同額の予算の再修正を行った上で30日以内に議決し、回付を受けた衆議院がこれに同意したことから、参議院の議決が国会の議決となった。
予算は年度内に成立したが、地方自治体や保険者においては、通常、年末の政府当初予算案を基に予算編成やシステム改修の準備等を進めており、国会修正は、こうした実務に少なからぬ影響を与えた。
予算の国会修正については、国会における熟議の結果であり、民主主義が機能していることの表れであると考えるが、国会審議においては、実施時期など実務への影響も考慮することを望みたい。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉