こくほ随想

第2回 
特定健康診査・特定保健指導は
どこへ行く?

前回は健康日本21に関わった思い出話をしました。今回のテーマである特定健康診査・特定保健指導(以下、特定健診・保健指導)も私にとっては大変思い出深い政策です。

特定健診・保健指導が検討されていた当時、国立保健医療科学院疫学部に在籍していた私は、今井博久部長(当時)のもとで、特定健診・保健指導のモデルともなるプログラムをいくつかの地域で行いました(岩手県や岐阜県など)。また、厚生労働省の担当者を含めて、国立保健医療科学院の中で、事あるごとに集まり、夜な夜な議論しました。

当時お付き合いしていた方々とは今も一緒に研究したりしています。今井部長(当時)とは、その後、お互いにいろいろな経緯を経て、現在、帝京大学大学院公衆衛生学研究科で一緒に働いています。

さて、後期高齢者医療制度とセットで導入された特定健診・保健指導は、「一丁目一番地」が合言葉だったように、後期高齢者の医療費が高騰しないように、予防に力を入れるというものです。また、医療保険者に積極的に取り組んでもらうため、後期高齢者支援金の加算・減算の仕組みを導入したり、標準的な保健指導を確立したり、大変よく設計された制度でした。そして、局が違えば会社が違うといわれる厚生労働省の中で、保険局、健康局、労働基準局を巻き込んだ大仕事でした。特定健診・保健指導は、その後、データヘルス計画とともに、医療保険者の役割を大きく変えるきっかけになりました。

連載の中で機会があれば紹介しますが、特定健診・保健指導の効果についての議論もされています。国保では当初30%程度であった受診率は15年かけて約10%上昇しましたが、このまま順調に伸びたとしても目標値の60%に達するのはあと30年(!)かかる計算です。また、日本全体での肥満やメタボの割合は上昇し、この政策が医療費の適正化に結び付いているのかは疑問視されています。

斜に構えると、特定健診・保健指導は、後期高齢者医療制度を導入するためのひとつの詭弁だったのではという見方もできます。特定健診・保健指導を行えば、メタボが予防でき、ひいては高齢者の医療費の伸びが抑制できるという理屈ですが、実際は話はそう簡単ではありません。健康づくりだけでは医療費が削減できないというのはこの業界では常識ですし、また、特定健診・保健指導で医療費が削減できるというエビデンスもほぼありません(特定保健指導による検査値等の改善のエビデンスは相当数あります)。

開始前にしっかりとエビデンスを蓄積しておくべきだったのでしょうが、十分なエビデンスを待っていてはタイムリーな政策は進みません。走りながらでも評価をきちんとして、想定された効果が認められなければ政策の廃止もありなのでしょうが、一度始めた政策をやめることは容易ではありません。政策と恋愛に共通することは、始めるよりやめることが難しいことです。(苦笑)

国の設定した目標値も、医療費適正化もなかなか達成できない中で、特定健診・保健指導はデータヘルス計画の中に組み込まれ、重症化予防等のいくつかある個別保健事業のひとつとなります。来年度から腹囲2㎝減、体重2㎏減というアウトカム評価が導入されるなど、マイナーチェンジがありますが、制度自体の大きな変更はありません。はたして、特定健診・保健指導はどこに向かうのでしょうか。

特定健診・保健指導に関わった研究者も第一線を退いたり、別の研究テーマに移ったりと、特定健診・保健指導をテーマにし続けている人は数少なくなりました。制度開始に関わり、研究者人生も残り少なくなった私としては、ライフワークとして特定健診・保健指導に付き合っていこうと思っています。目標達成まであと30年、目標達成を見届けて、研究者人生を終えたいところです。(笑)

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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