こくほ随想
第1回
健康日本21の思い出
~連載と令和5年度のはじまりに
あたり~
この「こくほ随想」のこれまでの執筆者は著名な方ばかり。力不足ではありますが、貴重な機会をいただいたことに感謝します。第1回は、令和5年度のはじまりにあたり、自己紹介を含めて、私にとって思い出深い健康日本21に関連したことを述べます。
健康日本21は、2000年度(平成12年度)、第3次国民健康づくり運動として開始され、2013年度からは、第二次となり、今年度は新しい計画策定の年です。新しい計画や政策には、目新しいコンセプトを入れること(“目玉”)が求められます。2000年度の健康日本21は、健康寿命の延伸を目的に『目標管理型』、すなわち、指標とその目標値を設定することが目玉でした。第二次では社会疫学の考え方に基づく『健康格差の縮小』が、そして、第三次では『ライフコース』が目玉になるようです。
2000年度の健康日本21の策定にあたり、私は厚生労働省(当時厚生省)の「健康日本21計画の基本概念と推進手段に関する研究」の研究班に協力研究者として参加しました。当時、大学院を出たばかりの私は、国立医療・病院管理研究所(現国立保健医療科学院)で、当時の長谷川敏彦部長(医療政策研究部)のもと、健康日本21の基本概念と方向性について検討していたのです。
私のミッションは、健康づくりの国際的動向を把握することで、その一環として、アテネで開催された「健康都市に関する国際会議」に参加しました。その会議で配布されていた『The Solid Facts』という社会疫学のエビデンスをまとめた小冊子がきっかけで、社会疫学が私の専門分野になりました。
残念ながら、社会疫学の考え方は、健康日本21の中には取り入れられず、目玉は、米国の Healthy People を参考にした『目標管理型』でした。2000年当時、日本では政策に取り入れられるほどには社会疫学の知見(エビデンス)は多くなく、その知名度も低かったのです。その後、日本でも社会疫学の研究が進み、多くの知見が蓄積され、2013年度からの第二次で、社会疫学の考え方が取り入れられました。
そして、第三次で注目されているのが『ライフコース』です。ライフコースは、「胎児期、小児期、思春期、青年期、そしてその後の成人期における物理的また社会的な曝露についての、その後の健康や疾病リスクへの長期的な影響に関する研究」というライフコース疫学をもとにしています。代表的なものは、出生時の体重(つまり、胎児期の栄養状態)が成人後の糖尿病等の生活習慣病に関係するという『成人病胎児期起源仮説』です。
後出しですが、2000年当時、私はすでにライフコースに注目していました。アテネで手にした『The Solid Facts』の中の“Early Life”の章に、小児期の環境等の重要性が指摘されていたのです。そこに引用されていたのが、出生体重と将来の慢性疾患の関係を指摘したBarkerらの論文(1989年発表)でしたし、1997年に出版されたKuhらによる『A Life Course Approach to Chronic Disease Epidemiology』という本も私の手元にありました。
健康日本21から20数年、時代が私に追いついた。というのは言い訳で、私自身もライフコースの考え方や重要性を十分に理解できず、研究班の報告書には、各年代別の課題ということで『ライフステージ』という言葉で、その内容を盛り込むにとどまりました。当時作成した図は、今も健康日本21のHPで参照できますし(https://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/about/souron/index.htmlより)、原画は私の机の引き出しにあります。
特筆すべきは、2000年にはヨーロッパの政策でライフコースが注目されていたのに対して、日本で政策に取り入れたのは、遅れること20数年。医薬品などでの海外とのギャップはよく指摘されますが、海外との“政策ギャップ”にも注目しなければなりません。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉