こくほ随想
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国際社会保障協会(ISSA)総会10月の24日から28日まで、モロッコのマラケシュで国際社会保障協会(ISSA)の総会が開かれた。その一部ではあったが、筆者もこれに出席する機会に恵まれたので、今回はそこで思ったことをご報告したい。 この会まで6年間ISSA会長を務めたドイツのブロイアー氏が挨拶で述べていたコメントが印象的だった。「十数年前には、社会保障で一週間も国際会議? と言われたものだが、今や各国の大臣レベルの出席も得て社会保障の役割を論じ合うのが何の不思議もないことになった」 その背景の一つが新型コロナのパンデミックだったというのも、日本国内だけでいると見落としがちなことだと思う。確かに、医療保障、雇用保障、所得保障の在り方が政権の在り方そのものを左右するインパクトを持つということを改めて経験したのが、今回のパンデミックだったのだ。我が国でも雇用調整助成金の枠組みが実は事業者に対する助成の最大のチャネルであったということはもっと注目されてよいと思うし、厚生年金や国民年金の保険料の特例は、政府の機能というものを負担と給付のバランスの中でどう位置付けるかということの一つのレッスンだった。 それとともに、女性の活躍を支援しつつ出生率の低下にどう歯止めをかけるかに各国とも努力しているということも、今更ながら勉強になった。我が国と対策のメニューはそう変わらない。男性の育児休業を進めていますなんて、どこかで聞きましたねという感じだが、そして成果もさほど違わないとも言えるものだが、何と言うか、議論のスピードと徹底度の感じが違うのだ。これは社会保障の関係者が参加する会議だからなのかどうか。我が国がプレゼンするとしたらどうしただろうかと思う。 同時に、この出生率や女性の活躍の問題を含めて、社会保障における横の連携ということ、つまり、雇用保障、高齢者介護、障害者の所得保障、医療保障などの各制度について、相互の効果と限界を見極めつつ、全体として機能する仕組みをどうつくるかという視点が、複数の議論の中で出てきたのもまさにその通りと言いたくなった。各国ともそれぞれ特色のある社会保障制度の歴史を重ねながら、同じような課題に直面しているのだ。 実務的な面では、デジタル技術をいかに活用してお客様サービスと能率とを更に向上させるかということが、何と言っても共通する関心事であったように思う。医療でも年金でも、社会保障制度の運営には膨大な情報処理を伴う。同時にその情報は基本的に個人情報であり、秘匿されるべき要請が極めて強い。こうした中で、進歩するデジタル技術の強みをどう活かして、医療の質や、保険業務の正確性、お客様との接点となる各種業務の能率とサービスの向上を図っていくべきか、ということである。 会議に参加している期間中、「我が国ではこういうシステムやアプリを開発しました」という売り込みを受けることも多かった。率直に言って、単純な制度を持っているところ、個人情報に対する社会的な意識が寛容なところは羨ましいなと思うところはある。けれど、我が国でも、もっと多くの領域で、デジタル技術を駆使したサービス向上や能率向上は図られなければならないし、できるはずである。 この点でもやはり、我が国において、もっとスピード感と徹底度を持った議論が行われてしかるべきだろうと思わないではいられなかった。私の奉職する日本年金機構でも「オンラインビジネスモデルの構築」を重要課題として取り組んでいるが、医療において取り組める領域はより広いと思う。医療保険の各保険者にとっても、むしろこれを一種のビジネスチャンスととらえて、更に積極的に取り組むことが求められていると言えるのではないだろうか。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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