こくほ随想

令和5年度予算概算要求

先月も書いたとおり、8月末は予算の概算要求の締め切りである。今年も、厚生労働省の令和5年度予算の概算要求が財務省に提出された。要求額33兆2644億円、令和4年度予算と比較して6340億円の増額である。

社会保障関係費は政府の一般歳出全体の5割を超えるレベルであり、社会保障というものがいかに我が国において大きな役割を担っているかを示している。しかし、その内訳を見ると、毎年の予算で「今年の新規事業は何」と言えるような、いわゆる裁量的経費ではなく、年金、医療等の各制度において国が義務的に負担することとなっている金額が大きい。したがって社会保障予算においては、時には法律改正を含む制度面での見直しをどう構想するかということが、大きな要素となってくる。

令和5年度予算概算要求に向けては、高齢化等に伴う年金、医療等の経費のいわゆる自然増が5600億円と推計され、今回の概算要求においてもそれを全て要求する形となっているが、これは年末の政府予算案決定の際には大きく圧縮される。ここ数年は、「高齢化による増加分におさめる」との考え方の下に圧縮が図られてきている。その際、年金制度においては人口構成の変化を給付に反映させる仕組みが「マクロ経済スライド」として既にビルトインされているので、医療に関わる部分をどうするかが主な課題となる。例えば令和4年度予算では、いわゆる自然増6600億円が年末の政府予算案の段階で4400億円増に圧縮されている。薬価や診療報酬の改定、後期高齢者医療における(高所得者の)患者一部負担増などによって増加を抑えたわけである。令和5年度予算においてはどうするか、診療報酬改定は2年に1度で、令和5年度には予定されていない。薬価改定を含めてどう対応するかを年末までに決着しなければならない。

さて、今回概算要求の重点事項を見ると、やはり新型コロナウイルス感染症の関係が目に付く。ワクチン接種体制の確保、治療薬の確保、医療提供体制の確保などだが、医療・介護分野におけるデジタル化(DX)の推進にも大幅な増額が要求されている。新型コロナでの経験を踏まえて、患者の利便性の向上と医療の質の向上のために、接種記録のデジタル化から更に進んで、個々の医療におけるデータの共有と活用や、研究面におけるデータベースの活用・充実のための取組が期待される。地域医療構想や医師偏在対策、医療従事者の働き方改革についても増額が盛り込まれているが、患者がそれぞれの地域で安心して医療を受けられることの大切さを改めて痛感したのが新型コロナの経験であったと思う。医療の質を守りつついかに効率化するかが、いよいよ問われている。

雇用の分野では成長と分配の好循環に向けた「人への投資」についての要求が今年度に続き、更に増額する形で盛り込まれた。人材の育成、そして女性・高齢者・障害者など多様な人材の活躍促進を図るだけでなく、必要な分野に円滑な労働移動を図ることも「コロナ後」の経済社会の課題であり、そのための支援の強化も盛り込まれている。

概算要求におけるもう一つの柱は「安心できる暮らしと包摂社会の実現」となっている。コロナ禍でテレワークを経験し、住み慣れた地域で安心して暮らせることの意義というものを改めて考えた人も多かったのではないだろうか。地域社会というものは本来、機能集約による効率化というものの対極にあり、そのことが、一定の煩わしさは伴うかもしれないが、相互の助け合いによる生活機能の維持や日々の生きがいにつながっている、というのは私の意見で概算要求書に書いてあるわけではないが、ともあれ、地域共生社会の実現に向けた施策の強化を継続することは、現在の我が国にとってとても重要なことなのである。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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