こくほ随想

ふたたび小集団主義について

前回、医療保険制度における小集団主義の意味について、年金と比較する形で述べてみたが、今回は介護保険との関係について書いてみたい。

介護保険の保険者は原則市町村である。20年以上前、介護保険制度が作られたときに、保険者をどうするかでさまざまな議論があったことを記憶している人も多いに違いない。それまでの福祉サービスの「措置」を行ってきた主体が市町村であったことや、介護が生活に密着したサービスであることから、いわば最小行政単位である市町村を保険者とすることは自然であった一方で、市町村の側からは財政的な面での不安感は強く、そこから、広域連合を保険者にすることもできるとされた。そのことは、その後、後期高齢者医療が制度化されたときに都道府県単位の広域連合がその保険者となったことの伏線ともなった。

なお、介護保険においては、生活支援に直接つながるサービスの性質上、給付が増えがちになることに備えて、給付を抑えるための手立ても取られている。要介護度別の支給限度額を設けたことや、あらかじめケアプランの作成を必須としたことなどがそれである。そうしたこともした上で、やはり小集団による保険運営が選択されたわけである。これは、前回国保について述べたのと同様、介護保険も現物給付の制度であり、地域ごとの要介護者の発生度合いや利用行動、介護サービス提供体制の違いなどによって給付の発生頻度や内容が変わってくるという事情によると言ってよい。

さて、前回のこの稿のなかで、保険の単位となる「小集団」について私は、「望ましい集団とは、保険として成り立ち得る一定の大きさを持つというだけでなく、医療を受けるための基本的な条件が同質で、かつ、健康度を高めるための努力が徹底できる性質と規模を持った集団だ」と書いた。前回は簡単に済ませてしまったが、このことは同一企業や同業種の被用者からなる健康保険組合には当てはまるものの、同一市町村の住民という国保や介護保険の被保険者集団については、地域性という点である程度はそうだとしても、実のところ文字通り当てはまるとは言い難いように思っている。特に「かつ、」以下の点においてそうである。そして、今回、介護保険について書いたのは、そうした中で、介護において各市町村が取り組んでいること、特に介護予防の取り組みが、国保においても小集団主義のメリットを発揮させる上で参考になるだろうということが言いたかったからなのである。

例えば、市町村の中で更に小地域ごとの集会所を利用して「集いの場」を持ち、運動指導や栄養指導を行ったり、介護予防のためのケアマネジメントを利用者の類型ごとに行ったり、という取り組みは、単に住民ということでひとくくりにするのではなく、介護予防のための努力を徹底するという観点から集団を再構成する試みということもできる。そうした試みを積み重ねることが、医療保険においても、小集団としての市町村の意義を更に高めることになるのではないだろうか。

付言すれば、後期高齢者医療制度においては保険者が都道府県単位の広域連合になっていること、このことが保険者と住民の距離感につながり、保健事業の内容の貧困さにもつながっている、という問題意識が、「(後期高齢者医療の)保健事業と介護予防の一体的実施」が先年、法改正によって導入されたことの背景にある。この改正は例えば介護予防の場に医療専門職を医療保険サイドの費用で参加させることを可能にするものであるが、自治体の創意工夫を活かすための規制緩和ともいえるものだった。制度の縦割りを越えてそれぞれの保険集団が効果を上げられるようにするための工夫が、国にも、これからますます、求められていくことになるように思っている。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

←前のページへ戻る Page Top▲