こくほ随想

新しいことを始める

■新年は新しいことを始める好機

年が明けたこの時期は心機一転、何か新しいことを始めたくなる時期だ。忙しい日常でそんなことを考える余裕がない働き盛り世代であっても、新年や人生の転換点、また新型コロナ禍で社会環境が変化している今、何か新しいことにチャレンジする人は少なくないかもしれない。

私もそんな誘惑からハーバード大学の公衆衛生大学院が提供するオンライン講座「Culture of Health」の受講を始め、昨年一年かけて修了した。プライベートでは、元々好きだった水泳と音楽を再開する年になった。実際に一歩を踏み出してみると、新鮮な気づきがあったり、ちょっとした楽しさを感じられて意外に長続きするものだ。

世の中の働き盛り世代は、実際にどんなことにチャレンジしているのだろう。内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月)によると、新型コロナ禍をきっかけに約5割の勤労者が新しいことにチャレンジしている。具体的には、「今まで関われなかった日常のこと」が1位で、「教育・学習」、「ビジネス関係の勉強」を併せて「学ぶこと」が2位となっている。

■都道府県の皆さんのチャレンジ

都道府県の皆さんにとっても、国民健康保険の保険者として地域でリーダーシップを求められるようになり、2020年はチャレンジの年になったのではないだろうか。

私たちの研究ユニットが提供する「都道府県向けリーダーシップ・プログラム」(こくほ随想第3回参照)は、「データヘルス計画」を進める都道府県の皆さんをバックアップする目的のプログラムだ。本邦初となるこのプログラムに勇気を持って参加していただいた6都県の皆さんには、まさに新しいことにチャレンジしてもらっている。市町村を訪問(オンライン併用)して「データヘルス計画」の運営の様子や問題点を直接うかがったり、同じ様式で都県内の市町村同士や他県との比較をしてみたり??。新型コロナ禍の影響でプログラムのスタートは秋以降になったが、都県庁の皆さんのアクションはこの4か月で明らかにレベルアップした。たとえば、市町村に関する情報を入手したり、都県内を俯瞰して市町村の構造的な課題を浮き彫りにすることで、横展開するための具体的な検討や準備につなげている。また、実際に事業をまわしている市町村の職員との人間関係が構築され、国民健康保険の司令塔としての力を発揮しやすくなっている。

■社会人が学ぶ意義

そうした変化を拝見すると、社会人が問題意識を持って学ぶことの価値は大きいと改めて感じる。大学で講義をしていても、医学部生からは基礎知識に関する質問が多いが、公衆衛生大学院の授業では実務経験のある医師や看護師から、「具体的にどんな解決策をとったのか? 成否の鍵は?」といった質問をよく受ける。これは、現場での課題を熟知し、明確な問題意識を持って学んでいるからこその視点だ。

私たちの研究ユニットにも、仕事と並行して博士号取得を目指すメンバーがいる。彼女の研究計画には、学術的な視点に加え、研究フィールドである現場の皆さんの課題を解決する視点が組み込まれている。また、研究成果を読みやすいように敢えて和雑誌にも投稿したり、研修会等で教材として活用している。社会とコミュニケーションしてきた経験が生きているのだ。

働き盛り世代の私たちが新しいことを始めるにはちょっとした勇気がいる。でも、その一歩を踏み出してみれば、得られることは小さくないし、仕事や職場、そして住民に与えるインパクトが大きいという点でも社会的な意義があると思う。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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