こくほ随想
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天気予報で見ていた島を訪れる■東京都がデータヘルス計画支援事業を開始先日、伊豆諸島の島にうかがった。いつも天気予報で名前は見ているが、訪問は初めて。といっても、観光ではなく、仕事としてである。東京都では、第2期データヘルス計画の中間評価及び第3期データヘルス計画の策定に向けて、東京都国保連合会、東京大学と共に全区市町村にヒアリングと助言を始めており、その一環で訪問したのだ。 一泊二日の滞在だったが、「常春の島」と呼ばれる温暖な風土を反映した亜熱帯の樹木や独自の食文化などに触れることができた。また、新型コロナウイルス感染症対策で様々な制限はあったものの、オンラインを組み合せて関係者が一堂に会したことで、書類だけでは見えない、人口7千人、高齢化率4割の島の課題が浮き彫りになった。 ■島の取組から「データヘルス計画」を運営するヒントが!町役場でのヒアリングには、現地入りした東京都の担当者と私が対面で、国保連、東大のほかのメンバーはオンラインで参加した。訪問前に町の「データヘルス計画」を「標準化ツール」(こくほ随想・第3回参照)に転載したところ、この町の健康課題として脂質・血糖が高く、一人当たりの入院医療費が高い一方で、都平均と比べて特定健診の受診率が低いという特徴が可視化された。 当日、「標準化ツール」を使ってヒアリングを進めると、町の担当者から「健診を受ける人が少ないために住民の健康状況が十分に把握できず有効な一手が打てない」という問題意識が示された。そこで、毎年一週間に限られている受診機会の拡大策の検討を始めると、オンラインで参加していた大学の同僚(彼女は協会けんぽの保健事業を先導してきた保健師でもある)から「協会けんぽの健診と共同実施してはどうですか?」との提案が挙がった。担当者は思いもよらなかった協会けんぽとの共同の可能性を知り、検討に前向きになった。 次に、私からは、受診を促す案内書を全員へ送付するだけでなく、被保険者の属性ごとにアプローチの「動線」を見つけることを提案した。性・年代や仕事の業種、居住地区などに応じて情報提供の方法を変えるのは、全国の優良事例で見られる要素の一つだ。すると、特に受診率が低い50代以降には、地元の漁協や婦人会を通じた周知が有用かもしれない、という地域の連携先が見えてきた。 このように、健診実施率という「アウトプット」を上げる工夫が見えてくるにつれて、担当者の関心が地域の健康課題の解決という「アウトカム」に向いたことも嬉しい驚きだった。市町村の担当者は保健事業の実施率を上げることに手一杯で、住民の健康に寄り添うという本来の目的まで思いが及ばないことが少なくない。このヒアリングも後半に入ると、健診の実施率から健康課題の解決に議論の中心が移っていった。糖尿病というこの町の健康課題の背景として、飲酒率の高さ(特に女性)が挙げられると、町の保健師から「特定保健指導の面談時に飲酒習慣を聞いて必要なアドバイスをしたい」といったコメントが出た。さらに、この町では保健指導の実務を外部委託していることから、町の保健師は委託機関に指導内容を提案したり、好事例をピックアップして町内にPRし、参加を促すといった司令塔的な役割を担うことを東京都から助言された。住民や町の様子を熟知する保健師ならではの強みを生かす作戦だ。 地域の健康課題の解決を目指す「データヘルス計画」は始まったばかりで、知見の蓄積はこれからである。特に東京都の島しょ部の町村は他の自治体との連携が物理的に難しく、運営も進んでいない。今回支援を受けたこの町が核になって、島しょ部の町村が共同で計画策定から保健事業の実施、評価・見直しを進められれば、ノウハウ共有など様々なメリットがありそうだ。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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