こくほ随想

コロナ禍で気づいたオンラインの可能性

■コロナ禍でこれまで聞いたこともなかった〝Zoom〟を使う日々に

新型コロナウイルスを巡る外出自粛により、日本でも一気に普及したのが、簡単にテレビ会議ができる〝Zoom〟だ。正直なところ、一年前には名前すら聞いたこともなかったが、私にとっても仕事で使わない日はない必需品になった。オンラインによる会議や授業でのこの3か月の試行錯誤を振り返りながら、予防・健康管理での今後の可能性に思いを馳せた。

■違和感からの出発

東京大学ではオンライン会議の仕組みとして〝Zoom〟を導入しており、授業もすべてオンラインで行っている。私は4月に初めてオンライン授業をした際には、大きな違和感を覚えた。そもそも学生の顔が見えないのだ。通信容量やプライバシー保護等の観点から、始めに出席を確認した後は、学生の“顔出し”は必須としない大学が多いようで、そのため彼らの反応がわからない。医学系の場合、大学院の授業は10数名程度なので、オンラインでも一人ずつ発言する機会を持てたり、そもそも顔見知りだったりするのだが、学部の授業はそうはいかない。それでも、授業中に課題を投げかけると、チャット機能を使って意見や提案がリアルタイムで返ってくる。また、授業の前後に関連資料や動画を見てもらうことで、内容の理解を促すことも可能だ。オンラインを使うようになって、授業後にメールで質問やコメントが来る件数は増えていて、必ずしも学生とのコミュニケーションが疎遠になった訳ではない。

4月からは国の委員会にもオンラインが導入された。5年前から私が専門委員を務めている経済財政諮問会議・専門委員会は、十数名の委員のほかに、内閣府の大臣、政務官をはじめ、関係省庁の随行者を含めると出席者は最大100人近くにのぼる。大きな会議室では発言者の顔が見えないこともあるが、オンラインでは省庁からの説明や各委員の発言がよく聞き取れ、相槌や苦笑といった表情まではっきりと読み取れる。何より、出席率が格段に上がった。

その一方で、オンラインでのやり取りが進まない場面も少なくない。2020年度は「第2期データヘルス計画」の中間評価・見直しのタイミングを迎えることから、自治体や保険者の皆さんとの会議や研修が増えている。ところが、外部と通信できるネット環境が未整備であったり、ネットの利用が管理職等に限られている自治体も少なくなく、大学からタブレット端末を貸し出して会議をすることもある。

また、職員個人のスマートフォンでの参加だと画面が小さく、他の参加者の様子がはっきりとは見えなかったり、資料の共有ができないなど、オンライン会議の良さが生かせない場合もある。

■オンラインによる予防・健康管理

それでも新型コロナウイルス対策に伴うオンラインの普及は、働き方や学校教育の形を変えるだけではなく、予防・健康管理の世界をも変える起点になると感じている。治療の分野では、感染症予防の観点から、オンライン診療が時限的に拡大された。予防に関しても、これまでは年に一度の健診が唯一、自身の健康をチェックする機会だったが、オンラインによる健康相談や保健指導などを使えば、その時々の生活環境や働き方に応じたアドバイスをもらえ、自身の取組も継続しやすい。

対面の良さは言うまでもないが、オンラインの普及によって医療専門職が住民にアプローチする動線が増えることで、専門的な知見や人的資源が国民の健康増進に一層生かせるメリットもある。最近、通学前に自宅で検温し、その数値をオンラインで中学校に報告している息子の様子を見ながら、オンラインによる健康管理が日常になる社会が到来することを感じている。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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