こくほ随想

市町村を生かす都道府県のリーダーシップ

2020年は都道府県による予防・健康づくりが本格的にスタートする年だ。そう言われても、住民から遠い都道府県がなぜ取組むのか? どんな意義があるのか? そんな疑問を持つ皆さんも多いのではないだろうか。

政府の骨太方針2019では、国民の健康寿命の延伸に向けた都道府県の役割として、市町村による「データヘルス計画」の取組やその成果を可視化し、いい取組を普及させたり、進捗が遅れている市町村を支援することが明示された。そのためのインセンティブとして、2020年度から年間500億円の予算もつけられた。

私は2015年から経済財政諮問会議・専門委員として、骨太方針などの政策立案及び評価の過程に参加する中で、都道府県を核として「データヘルス計画」を進め、国民健康保険制度を最適化する政策の重要性を感じてきた。そこで、私たちの研究ユニットでは、本年度から都道府県を支援する「都道府県向けリーダーシップ・プログラム」を立ち上げた。4月28日に新型コロナウイルス対策を踏まえてZoomでの説明会を開催し、30の都道府県の皆さんに参加いただいた。

その後、5月に開催した個別相談会では、「データヘルス計画は市町村ごとに違っていて当然で、県が音頭を取って標準化するイメージが湧きません」といった疑問や、「高齢化が進む中で、自治体の職員の確保も難しい。市町村の負担が増える状況で、どのように市町村を支援すればいいか悩んでいます」といった切実な声が相次いだ。なるほど、でもだからこそ都道府県がリーダーシップをもって「データヘルス計画」を進める意義があるのだ! そんなことを改めて感じる好機になった。実現することは次の3つだ。

①市町村の負担軽減

今までの「データヘルス計画」では、それぞれの市町村がKDB等からデータを集め、独自の方法によってPDCAをまわしてきた。それなりの労力が必要で、新任者にとってはゼロからの挑戦に近いかもしれない。ただ、健康課題の抽出から、評価指標の設定、保健事業のやり方の検討、毎年度の事業評価・見直しに至るまで、各市町村がばらばらにやっている作業も多い。そこで、都道府県が共通の枠組みを提供することができれば、市町村はこれらの手間を限りなく少なくし、余裕が出る分で効果が上がる工夫を考えたり、連携先との関係づくりに力を注げる。私たちはモデル県との研究を通して、健康課題や保健事業の中身を整理する共通様式である「標準化ツール」を開発し、既に一部の都県に提供している。「国保・後期高齢者ヘルスサポート事業ガイドライン」(国保中央会)や支援・評価委員会の助言に加えて活用されることを期待している。

②優良事例の横展開

これまでは同じ保健事業でも市町村によって評価指標がばらばらだったため、事業の結果を比較するのが難しかった。だが、県内で同じ評価指標を使えば(市町村独自の評価指標は残す)、市町村の成果の違いを客観的に把握でき、都道府県は効果があったやり方を広められる。また、同じ様式で市町村を一覧することで、県内の市町村の特徴を俯瞰した上で支援ができる。

③国民の健康寿命の延伸

都道府県がこのような取組を進めることで、国民健康保険と後期高齢者医療を横断する共創プラットホームができ、これに被用者保険を加えることでライフステージを横断した健康医療データのモニタリングや、保健事業と介護予防の一体的な実施も可能になる。たとえば、糖尿病では、健康リスクが顕在化した現役時代のデータが退職後の国保や後期高齢に引継がれ、継続した働きかけができれば重症化の予防につながる(5月号参照)。

都道府県のリーダーシップが市町村による保健事業の質向上に寄与し、さらに生涯に寄り添う予防・健康づくりを可能にすることを大いに期待したい。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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