こくほ随想
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セルフメディケーションと医療のかかり方セルフメディケーションという言葉がある。WHO(世界保健機関)の定義によれば、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」という意味である。我が国においても、最近いわゆるセルフメディケーション税制も導入され、政府としても自分で一般用医薬品を購入して服薬することが推奨されているが、なかなか進んでいない。医療保険が薬をもらうため安易に利用されているとの指摘もある。 現在、一般用医薬品の市場規模は医療用医薬品の10分の1でしかない。一般用医薬品にドリンク剤等の指定医薬部外品を含めても、民間調査機関推計で約8300億円だが、医薬品全体は約10兆円である。かつての市場シェアはもっと大きかったが、皆保険達成後急速に医療用医薬品のシェアが拡大した。それだけ医療機関へのアクセスが改善したことは評価されるべきだが、行き過ぎも懸念され、薬をもらうために医療機関を受診する、薬を出してくれる医療機関を探す、ということも稀な事例ではないと思われる。 これは、医療保険財政への悪影響という意味で大きな問題と言えるが、医療の利用の仕方という意味における問題でもある。皆保険制度が国民の医療へのアクセスを保障した功績は大きいが、皆保険制度という貴重な財産を後世に残していくためにも、患者の側も自分の健康を自分で考えることが必要ではないだろうか。 まず、医薬品に関しての正しい知識が必要である。医師が処方する医療用医薬品の方が一般用医薬品よりも切れ味がいい、という印象が一般的だと思うが、今や薬局で売られている薬の多くが医療用医薬品だった成分を用いている。医療用成分を一般用医薬品にスイッチして用いる、という意味でスイッチOTCと呼ばれているこれらの製品は、実は簡単に見分けることができる。セルフメディケーション・税・控除対象とのマークが外箱に表示されているもの、つまり、税控除の対象製品はスイッチOTC医薬品なのである。スイッチOTC医薬品だけでは対象が少なすぎるとの意見もあったが、今年7月現在で1,744品目に達しており、その多様さを知るには、薬局で実際に手にとって見ればいい。必要な薬が分かっていれば、一般用医薬品は最も早く手に入れられる。 また、薬に関して専門家に相談を行う事も大切である。健康サポート薬局という認定制度が始まっていて、調剤だけではなく、一般用医薬品も含めて薬の相談に幅広く応じてもらえる。その数も増えつつある。 そして、もちろん、軽度の症状であっても、重大な病気が隠れていることがあり、必要な時には医師の受診をためらってはいけない。高齢化に伴い、医師の指導を受けながら暮らす人も増えており、このような場合は、自己判断で医薬品を買うことは危険な場合もある。多くの医師にかかると、重複投薬の恐れも出てくる。何でも相談できるかかりつけ医を持つことが重要になっている。 薬について考えるということは、このように医療のかかり方を考えることに通じる。医師の説明をよく聞いた上で、必要以上に医療に頼らない、健康に関する自覚を持った賢い患者になる。セルフメディケーションは、単に医師にかからず薬局に行こう、ということではなく、そのような賢い患者になることを目的とするものだと思う。 医療保険の問題は、難しい。保険財政が黒字になったけれども患者が必要な医療が受けられない、ということではいけないが、国民が医療を思うままに受けて、それで医療体制や財政が破綻したということが起きてもいけない。皆保険は、貴重な財産として守って行かなければならないものであり、そのためには賢い患者になる、賢い医療のかかり方を考える、そういうことが必要だと考える次第である。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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