こくほ随想

薬価の毎年改定

今年の10月に消費税が10%に引き上げられる予定である。このため、臨時の診療報酬改定及び薬価改定が予定されているが、改定時期が常に問題になるのは薬価改定であった。今回のように年度途中の改定は近年になかったし、前回の改定は昨年の4月に行われているので2年連続となる。さらに来年4月は通常改定となるので、3年連続の改定となることがほぼ決まっている。そして、その先は、毎年調査・毎年改定という大きな方針が既に決められている。

薬価改定が保険者にとっては貴重な医療費縮減策であることもあり、頻回改定は歓迎すべきことに見えるが、そう単純ではない。これまでの経緯を振り返り、課題を考えておきたい。

現在、薬価改定は2年に1度、全面改定が行われているが、常にそうだったわけではなく、毎年改定が行われた時代もあった。医療費の伸びが我が国の医療保険財政と国家財政を脅かし、健康保険法の大改正が行われた頃、すなわち昭和58年から昭和61年までは薬価は毎年改定されていた。この時代には全面改定は3年に1度であり、その間の年に薬価差の大きい品目を中心とした部分改定が行われていたのだ。当時、特定の薬効群では激しい販売競争が行われており、大きな薬価差が生じていたことが背景にある。

しかし、毎年改定の下で、弊害も生じた。価格が決まらないまま納入を行うという未妥結・仮納入が長期化し、そのまま次の改定を迎えてしまうことも多く、医薬品卸売業者への影響は大きいものがあった。また市場価格が不安定になるなどの弊害も見られたのである。このため、この制度は廃止され、昭和61年の改定が最後の部分改定となっている。

昭和63年の全面改定からは、2年に1度、薬価の全面改定と診療報酬本体の改定をセットで行い、間の年では消費税の税率が変わった場合のみ改定を行ってきた。薬価改定にとっては、改定から1年以上経過した翌年度に薬価調査が行われることから、ほぼ妥結済みの正確な価格を調べることができたし、診療報酬の改定にとっては、前回改定の結果を十分調査・検証して次の改定に反映させていくことができた。このように、2年に1度というサイクルは現場になじむものであったのである。この背景には、なるべくデータやエビデンスに基づいて改定を行おうという中医協の姿勢があり、それにうまく適合した、と言える。また、製薬企業サイドにとっても、2年に1度改定の影響を見込めば良いため中期的経営計画を立てやすいというメリットがあったと思う。

しかし、時代は変わった。オプジーボの薬価問題が注目されたが、特に超高額薬剤の扱いが議論になったときに、これほど超高額なのに薬価について2年間一切見直さなくていいのか、という批判が出てきた。オプジーボが期待の新薬であるが故に次々新しい効能が追加され、薬価を設定したときの前提が変わっているための批判だった。しかし、問題はオプジーボにとどまらず、薬価全体に議論は波及し、適時適切な薬価改定の要請が高まったのである。

冒頭で見たように、昨年から来年まで薬価改定が続くが、昨年と来年は元々全面改定の年であり、今年10月の改定は、消費税率引き上げに伴う中間年改定なので、ここまでは過去にも例があるし、消費税率引き上げは頻繁に行われるわけではない。しかし、毎年改定の要請は、これから継続的に間の年の改定をやることを意味する。

これが、これから議論になる毎年改定問題である。関連業界にも保険者にも大きな影響があると考えられるが、具体的内容はまだ決まっていない。薬価は下がれば良いというものではなく、安定供給が必要だ。過去の弊害も踏まえ、従来の発想にこだわらず、安定した仕組みにすべく議論を尽くしてほしい。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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