こくほ随想
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重症化予防と健康スコア医療保険者の保健事業の重要な責務は、重症化して高額医療となる人をできるだけ減らすことである。重症化した際にかかる医療費は、全体の大きな割合を示すことが知られており、重症化予防の意義は大きい。一方でどのような対象者にどのような事業を行うべきか、十分に検討されていないのが現状である。 高額医療が発生する要因は、主に「未治療のハイリスク者」と「治療中のハイリスク者」で区分される。未治療者への重症化予防対策は、主に治療勧奨である。生活習慣病は治療すると、未治療の場合と比較して約半分程度にリスクが下がることが報告されており、リスクが著しく高い場合には治療勧奨の効果が最も期待できる。 未治療者の抽出は現在のところ、血圧、HbA1c、LDLコレステロール値など単独の検査項目について値を定めて実施することが多い。血圧を例に挙げると、積極的な治療勧奨は160/100mmHg以上を用いることが多い。この値以上であれば、翌年の高額医療の発生率が2倍以上になる(45?54歳男性)ことがわかっている。各検査項目でそれぞれの値を定めて、高額医療予備群を抽出することになる。この方法はわかりやすいが、疫学研究からは、血圧やHbA1c、LDLコレステロール単独の値のみでは循環器疾患の発症予測は不十分で、これらの相乗効果(複数を同時に持つ場合のリスクが高くなる)、さらに喫煙習慣や多量飲酒などの情報を考慮する必要があることが知られており、様々なスケールが提唱されている。しかし、実際に保健事業に活用された例はほとんど見られない。 我々は血圧などの検査結果に加え、特定健診で得られる肥満、運動、喫煙、多量飲酒と血圧などの治療状況による健康指標として「健康スコア」を作成し、高額医療対策への応用を試みている。健康スコアは脳卒中や心筋梗塞の起こりやすさの逆数を100倍したもので、最もリスクの低い人が100点、種々のリスクを持つほど点数が低くなる指標である。 下図は、男性の健康スコアの分布を示したものである。全体の約20%が80点以上の低リスクに区分される。反対に50点未満には全体の20%程度、30点未満には5%程度が含まれる。健康スコアの分布が低くなるほど脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる。従って、健康スコアの低い人を優先して対策すれば、脳卒中や心筋梗塞の発症を予防できる。現在は高額医療の予測性を検討しているが、効率的に高額医療予備群を予測できる可能性が高い。 健康スコアを用いた高額医療対策では、7つの検査結果と生活習慣に基づき課題となる項目が示されるため、血圧などの治療勧奨に加え喫煙や多量飲酒をはじめとする生活習慣改善の介入を包括的に実施する必要がある。単純な治療勧奨とは異なる技術や知識が必要となるため、どこでもすぐに活用することは困難であるが、保健指導の基本技術を学べば効果が期待できるものと思われる。 健康スコアの利点は、対象者選定の際に未治療・治療中を問わず(治療効果を考慮している)、総合的な生活習慣病リスクを評価できることである。従って、治療中のハイリスク者の抽出にも応用できる可能性がある。また、値が0~100点にまとまっているので直感的に処理しやすい。重症化予防対策を実施する際にこのようなスコアを利用して対象者を抽出できれば、高い効果が予測できる。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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