こくほ随想
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重症化予防と医療費適正化特定健診・特定保健指導制度が施行されて10年が経過し、保険者による保健事業の定着に伴い、生活習慣病の重症化予防などの新たな視点が強調されるようになってきた。こうした事業は「疾病管理モデル」に基づくもので、従来の保健事業とは一線を画したものである。ここでは、重症化予防事業がなぜ必要か、どのような視点で取り組むと効果的なのかについて述べたい。 多くの保健師や管理栄養士は、保健事業の目的はという問いに「健康をいつまでも維持すること(健康増進)」と答えるだろう。公衆衛生分野では、長年このような考え方に基づき様々な活動が行われてきた。しかし保険者の保健事業の視点から考えると、健康増進だけが目的ではないことが明らかになりつつある。多くの住民は加齢に伴って、高血圧や糖尿病を発症し、治療が必要となる。生活習慣病による高額医療者(脳卒中、心筋梗塞、慢性腎不全など)の多くはこの中から生じる。特に未治療、治療中断、治療していても効果が上がらないことは高額医療の原因となることがわかっている。私どもの研究では、50歳代の男性で健診結果が高血圧グレードⅢ(180/110以上)の人は、至適血圧(120/80未満)の人と比較して一年以内に高額医療者となる確率が3倍になった。 問題はこうした高額医療が、医療費全体の多くを占めることである。下図は被保険者に占める人数割合と医療費割合との関連を模式的に示したものである。医療費は血圧や体重などと異なり、特殊な分布を表す。下図をみると、支出上位5%の人の医療費は全体の50%を占め、上位10%までとすると全体の70%を占めることがわかる。 したがって、少数の高額医療予備群を適切に抽出し手厚く管理して対策できれば、高額医療の発生を減らせる可能性がある。こうした考え方を「疾病管理モデル」といい、もともとは臨床での重症者の合併症予防に関する考え方から生じたものである。保険者の保健事業には、住民の健康確保と医療費の適正化を実現することが求められている。 高額医療のハイリスク者への対策は、高度異常の未治療者や中断者に対して医療機関受診と適切な治療を促す「受療勧奨」と、治療中でもコントロールの悪い人に対する「保健指導」の2つの事業に区分される。 保険者にとって最も基本的な保健事業は前者であり、受療勧奨によって適切な治療が行われればリスクは大きく軽減される。要治療となっても放置されているケースはまだまだ多く、健診受診者に対する系統的な受療勧奨の体制を整備することが重要である。 治療中でも体重管理が不十分、服薬が不適切などの理由で検査結果が改善しなければ、合併症のリスクを下げることはできない。従来、治療中の患者は臨床医の専権事項と考えられてきたが、少しずつ考え方が変わってきている。 「疾病管理モデル」に基づく事業は医療関係者との連携が必須で、コンセンサスなしに事業を行っても効果は期待できない。医療関係者とのネットワーク形成のためには最初の事業展開は「受療勧奨」のほうがよい。この体制整備と効果の確認を医療関係者とともに行うことが望ましく、十分な効果を確認することが第2弾の治療中ハイリスク者の「保健指導」の実施を容易にする。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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