こくほ随想

我が事・丸ごと

最近、保健福祉改革の基本コンセプトとして「我が事・丸ごと」が提唱されている。厚生労働大臣の平成29年の年頭所感でも「地域や個人の抱える課題を多様な主体が『我が事』として受け止め、『丸ごと』支えていく『地域共生社会』の実現」が謳われている。

まず、「我が事」についてであるが、1961年のジョン・F・ケネディ大統領の就任演説のもっとも有名な部分は、「あなたの国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたがあなたの国のために何ができるのか問うてほしい。」である。この中の「国」を「地域」に改めれば、今回提唱されている「我が事」の意味がよりはっきりするだろう。

保健福祉は、えてして国や公が施すサービスと受け止められがちである。しかし、自助や互助が基盤になければ、地域社会は成り立たない。これは、何もみんながみんなボランティアをやるべきだと言っているのではない。しかし、少なくとも、生活習慣病予防やフレイル予防あるいはセルフメディケーションには、一人一人が「我が事」として取り組んでもらわなければ、医療費や介護費はいくらあっても足りないだろう。

次に、「丸ごと」であるが、これには、「全世代対応の窓口の一元化」と「全分野対応のサービスの総合化」という2つの意味がある。

2015年9月17日に、厚生労働省内に設置された「新たな福祉サービス等の在り方検討プロジェクトチーム」が取りまとめた「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現~新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン~」では、複合的な課題を抱える要援護者に対する包括的な相談支援システムとして「全世代対応型地域包括支援センター」などのワンストップ型の窓口の整備を提案している。これまでは、高齢者の地域包括支援センター、障害者センター、児童に関する窓口などは別々になっていた。人口減少社会においては、これを一本化していこうというのは必然的な流れだろう。

また、「全分野対応のサービスの総合化」については、多くの施策について市町村レベルでの施行が進められている。子ども・子育て支援新制度、介護保険の地域包括ケア、生活困窮者自立支援制度、障害者施策などである。子ども・子育て新制度は、保育園と幼稚園の垣根を低くし、地域の保育需要に柔軟に対応しようとしている。さらに、最近はフィンランドのネウボラをならって、妊娠、出産、小児医療から子育てまでの窓口を一つにして総合的に対応しようとする動きが出てきている。介護保険の地域包括ケアは、改めていうまでもなく、要介護高齢者などについて、予防、医療、介護、生活支援、住まいの各施策の総合的提供を図るものである。窓口は、かねてから地域包括支援センターに一元化する方向になっている。生活困窮者自立支援制度では、地域の総合的な相談窓口で生活困窮者の支援プランがつくられ、住宅確保、就労準備、家計相談、就労訓練、子どもの学習支援などが、利用者ニーズに応じて提供される。障害者や難病の分野でも、医療、リハビリ、介護、就労の総合的な提供が求められる。

このように、最近の施策の展開は、窓口の一元化により利用者の利便性を図ると同時に、総合的なサービスを用意して、効率よくニーズに見合った行政サービスを提供するという方向になっている。

この方向は、利用者からは歓迎される動きだが、市町村行政にとっては、既存の縦割りの組織に横串を刺さなければいけないことになるので、なかなか対応が難しい。

しかし、このような変化は、従来型の働き手の増加を前提とした縦割りの専門組織化がもはや時代遅れとなり、今後の人口減少・少子高齢化社会において、一元化や総合化という行政の展開が必然となりつつあることの証左であろう。市町村も時代に対応した新たな組織体制が求められているのである。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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