こくほ随想
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『2015年の高齢者介護』は達成されたか2003年6月に厚生労働省老健局長の私的研究会である「高齢者介護研究会」(座長:堀田力・さわやか福祉財団理事長・当時)が『2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~』と題する報告書を取りまとめた。当時、筆者は老健局長としてこの研究会を委嘱する立場にあった。この研究会が設置されたのは、2005年に控えた介護保険法改正の準備のためである。そこでは、団塊の世代が65歳に成りきる2015年を目標として「あるべき介護」の姿を明らかにすることが目指された。その2015年を迎えた現在、『2015年の高齢者介護』で何が語られ、それがどの程度達成されたのか、考えてみたい。 介護保険法施行以来の実績のデータが利用可能であり、研究会では施行状況を検証し、課題を整理することから検討が始まった。 まず、要介護認定のデータから、認知症高齢者(当時の呼称は「痴呆性高齢者」)の実態がはじめて明らかになった。それを踏まえ、これからの高齢者介護は認知症対応を「ケアの標準」とすべきで、「新しいケアモデルの確立」が必要だと提言した。その後の認知症ケアの歩みは、隔靴掻痒(かっかそうよう)の感があるが、12年には認知症高齢者数の新たな推計が出され、研究会当時の推計が上方修正された。13年からは厚生労働省の「オレンジプラン」が開始された。昨年11月の認知症サミット日本後継イベントでは安倍総理が政府一体となって「認知症施策を加速するための新たな戦略」の策定を約束するところまで来ている。 次に「尊厳を支えるケアの確立への方策」として、「生活の継続性を維持するための、新しい介護サービス体系」を提言した。具体的には①在宅で365日・24時間の安心を確保する、②「新しい住まい」、③高齢者の在宅生活を支える施設の新たな役割、④地域包括ケアシステムの確立が挙げられた。 ①については、05年の法改正で地域密着型サービスが創設され、小規模多機能型居宅介護が開始された。さらに、11年の法改正で「定期巡回・随時対応型訪問看護介護」も創設された。②については、介護保険法で「特定施設」が制度化され、以後、有料老人ホームの増加がみられていたが、11年にはサービス付き高齢者向け住宅が制度化され、急速に整備が進んでいる。 ③については、施設機能の地域展開とユニットケアの普及が指摘された。施設機能の地域展開としては、特別養護老人ホームが1万1,000か所を超えた認知症グループホーム、約4,000か所の小規模多機能施設、約1,000か所の地域密着型特養とネットワークを組みつつ、それらのバックアップ機能を果たして、地域の介護を面的に支えることが期待されている。ユニットケア実施施設は36.1%に達し、全居室に占める個室の割合は67.5%に達している(14年10月現在)。 ④については、05年の法改正で地域包括支援センターが制度化された。11年の法改正において、国及び地方公共団体の責務として地域包括ケアの推進に努めることが規定された(第5条第3項)。10年から検討が開始された「社会保障と税の一体改革」において、2025年までに実現すべき医療・介護提供体制として、良質で効率的な医療提供体制の確保とともに、地域包括ケアシステムの構築が政府全体の目標として位置付けられた。それは「プログラム法」で規定され、13年6月には「医療介護総合確保推進法」が成立している。 介護保険制度が始まってから、特に軽度者の増加が著しい。制度が本来目指す自立支援を強化するため、介護予防・リハビリテーションの充実が提言された。05年に介護予防が制度化され、介護報酬の改定のたびに介護予防と重症化防止が課題であったが、十分な成果は得られていない。 さらに、「サービスの質の確保と向上」が報告書の重要な柱となっている。現状は課題山積で「道遠し」と言わざるを得ない。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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